バイラルキャンペーンと創意工夫に富んだコンテンツ

 こうした親近感の演出に加え、いわゆる「バズ」の創出にもマムダニ陣営は力を入れている。

 たとえば、バレンタインデーが近づいていた2025年2月7日には、マムダニが赤いハート型風船を手に街を歩き、最後に愛の告白をするかと思いきや、ディズニー映画の名曲「愛を感じて(Can You Feel the Love Tonight)」をもじった替え歌を歌いながら支持を訴えるというコミカルな動画を投稿している

 また2025年夏、市長選で対立候補だったエリック・アダムスの陣営が記者にポテトチップス袋に忍ばせた現金を渡していたという買収スキャンダルが報じられた際には、マムダニが同じ銘柄のポテトチップス袋を手に「正直に言わなきゃならない……隠していたことがある」と意味深に語り出すTikTok動画を投稿している

 こうしたバイラル動画はいずれも大きな反響を呼び、生成AIを利用した動画を投稿して批判されたクオモ陣営とは対照的な姿を見せた。

 ちなみに、この動画に対して、マムダニはX上で「一流のアーティストやプロダクション・クルーでも次の仕事に飢えてる都市で、アンドリュー・クオモが住宅政策を起案したのと全く同じやり方でテレビ広告を制作したそうだよ――つまり、AIに丸投げしたってことさ。けどよく考えると、本物のクオモよりもAIが生成した偽のクオモの方が、むしろ優秀なんじゃない?」と揶揄しており、現時点でこのポストの閲覧数は、クオモ動画の再生数よりもはるかに多い(それぞれ89.2万回と2.1万回)。

 このポストにある「クオモが住宅政策を起案した」とは、クオモが2025年4月に住宅整備計画案を発表した際、その一部にChatGPTを使用していたのがバレるという出来事があったことを揶揄したもの。そして後述するように、住宅問題はマムダニにとって選挙戦での中心争点のひとつだった。

不評だったクオモ候補の生成AI活用動画(クオモが地下鉄の運転手やシアターの舞台係、ニューヨーク証券取引所のトレーダー、高層ビルの窓拭きなど、「伝統的に」ニューヨーカーと見なされる職に就いている姿が生成されている)

 ただマムダニは、何も考えずにバイラル動画を量産していたわけではない。彼の動画は、具体的な政策提案に直接リンクされており、話題性重視のキャンペーンとは一線を画していた。