具体的な争点や政策、公約と結びついていたバイラル動画

 たとえば、前述の「ハラルフレーション」動画は、単にハラル料理の屋台をめぐって「物価が上がったね」と嘆いているわけではない。この動画は、コスト増加に寄与する複雑な許可システムを明らかにし、料理を「再び8ドル」にすることを誓うものだ。バイラル動画で注目を集めつつ、中小企業が直面する官僚的障壁についての主張を拡散したのである。

 また2025年元日、マムダニはコニーアイランドの恒例行事「ポーラーベアプランジ」(真冬の寒さの中で海や湖に飛び込むイベント)に参加した。その際彼は、古着のスーツを着て凍てつく海に入り、「凍えそうだ(I’m feezing)」と言いながら「次のニューヨーク市長としてあなたの家賃を凍結する(I’m freezing your rent)」と宣言した。

マムダニが真冬の海に入るバイラル動画

 ニューヨーク市はいま、大きな住宅問題に直面している。手頃な住宅の不足が深刻で、ニューヨーク市家賃指針委員会が2025年に発表した資料によれば、2023年の賃貸空室率はわずか1.41 %と、都市が制定した規制維持基準(これ以上になったら住宅不足状態が解消されたと見なされる値)である5%を大幅に下回っている。家賃支出に収入の半分以上を割いている住民の割合も約30%に上る。

 こうした背景から、マムダニはこの住宅問題を選挙戦での論点のひとつとしており、その解決策として、200万人以上の家賃規制対象の借主に対する家賃凍結を公約している。それを「凍えそう」と「凍結」にかけたわけだ。

 このように彼は、バイラル動画を単なる注目集めに使うのではなく、それを必ず具体的な争点や政策、公約と結び付けて、自身の主張を浸透させたのである。

 さらにマムダニ陣営は、外部のインフルエンサーやコンテンツ制作者との連携にも積極的だった。オンライン上で影響力を持つ人物たちを多数招き入れ、キャンペーンを取材・発信してもらうことで、新たな視聴者層へのリーチを広げたのである。

 これは従来のキャンペーンがインフルエンサーを一時的な広告塔、つまり基本的に外部の存在として扱っていたのとは対照的だ。