松平定信が天皇の意向をも退けた「尊号一件」
「一難去ってまた一難」とはよく言ったものだが、それでも一難去ってから、新たな一難が来てくれればまだマシで、実際には困難が連続で襲ってくることも珍しくない。
ドラマでは、定信がラクスマンへの対応を協議している最中に「お話し中、ご無礼いたします」と、次はこんな報告がなされた。
「京都所司代より、帝はご父君にご尊号を贈られるおつもりのようだと!」
この「尊号一件」(尊号事件)については、過去記事(「大河ドラマ『べらぼう』天皇の意向をも頑として退けた「尊号事件」、松平定信が危惧した本当の相手とは?」)でも解説した。
尊号一件の概要をおさらいしておくと、光格天皇が、実父である典仁親王に「太上天皇」の称号を与えたいと幕府に打診するも、定信はこれに反対。太上天皇の尊号を冠するのは、あくまでも天皇の地位についた者のみ、という原則にこだわり、天皇の意向をも退けた。
それでも諦めなかった朝廷は、今回の放送であったように、「尊号宣下を断行する」と強引に推し進めようとしたが、定信は「決して御無用」と改めて拒絶。天皇の側近にあたる2名の公家を江戸に呼びつけ、処罰まで下している。
ドラマでは、そんな経緯がほぼ忠実に再現されることになったが、実際の定信は朝廷の行動も予見していたため、あれほど怒りをあらわにすることはなかっただろう。
史実において、定信はただ朝廷の要求を退けただけではなく、話し合いをしながら落としどころも探っている。