鈴木明子 撮影/積 紫乃
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(松原孝臣:ライター)

 2025-2026シーズンは、いつもと異なる意味合いを持つ。4年に一度訪れる「オリンピックシーズン」だからだ。

 ミラノ・コルティナオリンピックの出場枠は、男女各3。12月に行われる全日本選手権の優勝者が1人目として決定し、残る2枠は、全日本選手権の2位と3位、グランプリファイナルの上位2人、オリンピックシーズンのベストスコア上位3人など定められた基準の中から、総合的に判断して決定する。

 選手にとって、大舞台への切符を懸けて臨むシーズン、男女シングルの展望は——プロフィギュアスケーター、振付師、解説者等幅広く活動する鈴木明子を訪ねた。

●【鈴木明子が展望する五輪シーズン:男子編】はこちら

引退を表明している坂本花織と樋口新葉

 男子はある程度、代表争いにかかわってくる選手が絞られている。

 では女子はどうか。

 鈴木明子はこう語る。

「オリンピックの代表争いと言うと、いつのときも男子以上に女子は厳しい戦いにはなるんですけど、今シーズンも女子は予測のつかない展開が多く、この段階では一層読みづらい状況にあります」

 全体をそう捉えた上で、まずは今シーズンをもって引退することを表明している2人について語る。

 1人は坂本花織。平昌大会に続いて出場した北京オリンピックの銅メダリストであり、世界選手権は2022年から3連覇を達成している。

「今シーズンで引退と決めている坂本選手は北京からのこの3年間、トップでずっと走り続けてきた選手です。思い残すことなくやり切ってほしいというのが私の願いです」

 もう1人、引退を明らかにしているのは樋口新葉。北京オリンピックでは4位入賞を果たしている。坂本と樋口は団体戦銀メダルのメンバーでもある。

「樋口選手の場合、2022年から2023年の1シーズンを休んでから戻ってきました。あの休養がすごく彼女にとってはよかったんだな、というのがスケートにも表れていて、スケートそのものが自分のものになっているというか、自分自身主体でスケートを追い求めていることができているのが純粋に伝わってきます」

 前もって引退を公言した背景をこう分析する。

「ファンの人たちにとっては心の準備ができて、ファンの人たちも思い残すことでないように応援できるというところもあるかなと思います。私自身もソチのときには最初からオリンピックに行けても行けなくても引退すると決めて公言もしていたんですけれど、選手にとっては、もうこれで最後だと思ったらどんな辛い、苦しい練習でも、今、追い込まれている精神的な状況も今しか味わうことができないと思って乗り越えられると思います。それに、自分の中で心の整理をしてやりきる、と思えているんじゃないでしょうか。2人とも仲がいいので、最後に一緒にいい形で引退できたらっていうところもあるのかなとは思います」

 2人は昨シーズンの世界選手権に出場している。そしてもう1人、世界選手権に出場したのが千葉百音。3位で表彰台に上がった。

「女子もグランプリシリーズから大事な戦いになってきますし、いい成績を残してグランプリファイナルに行く、そこで結果を残すことが代表争いで優位に立つことができます。そのためにはあまり波が大きくないことが大事になってくると思いますが、千葉選手は昨シーズンから非常に安定していると感じます。初めてのオリンピックのためにいい形で準備ができていると思います」