2022年10月29日、スケートカナダでの紀平梨花 写真:AP/アフロ
(松原孝臣:ライター)
「もう一つのスケート人生」
そのニュースは、瞬く間に広がった。
9月29日、フィギュアスケーター紀平梨花がアイスダンスへの挑戦を表明したのである。
「この度、西山真瑚さんとアイスダンスカップルを結成することになりました。
私はアイスダンスに挑戦します。
この挑戦を後押ししてくれた家族や所属先、スポンサーの皆様、私にもう一つのスケート人生の機会をくれた西山真瑚さんには感謝しています。
これからも夢に向かって全力で取り組んで参ります。」
SNSにこう綴り、オンラインでの会見も行った。
言葉の中にあるように、パートナーとなるのは西山真瑚。2018-2019シーズンにアイスダンスに挑戦することを明らかにし、その翌シーズンから大会に参加してきた。つまりアイスダンスのキャリアを持つスケーターだ。2022-2023シーズンまではシングルのスケーターとしても活動していた。
紀平はシングルにも取り組みつつ、アイスダンスへの挑戦することを決めたが、きっかけは西山からの誘いにあった。
西山は今年7月に前パートナーとのカップルを解消し、次のパートナーを探していた。そして紀平は9月の中部選手権にエントリーしていたが、数年来の足の怪我の影響から、欠場を発表していた。
その前から西山と滑る機会があったが、高難度のジャンプは難しく、「今シーズンのシングルの活躍は難しい」(紀平)という判断も後押しとなった。欠場のあと、本格的にトライアウトをしてともに挑戦することを決めたが、両者ともに、ある意味、タイミングが合ったことが生んだ結果だった。
タイミングが合ったばかりではない。西山の誘いで練習を始めたという。その中で西山が感じたのは紀平の適性だった。
「お互いが邪魔することなくスムーズに滑れていたというのがはじめに感じた第一印象でした。ほんとうに学ぶのがすごく早くて、アイスダンスはたくさん考えて動かないといけない競技でもあるので、スケートの感覚というのがいいんだな、アイスダンスにも向いていると感じました」
紀平は、4回転ジャンプやトリプルアクセルなどを跳んでいたがために、どうしてもジャンプの部分で注目されることが多かったが、スケーティングなどでも優れているスケーターだ。また、身体能力の高さは小学生の頃から知られている。西山が可能性を感じたのも、ジャンプ以外のそうした特性にあっただろう。