島田高志郎 撮影/衣笠名津美
(松原孝臣:ライター)
フィギュアスケート・男子シングルの島田高志郎選手が、今年の5月にアイスダンスへの挑戦を発表。男女1組で行うアイスダンスは、ジャンプはないものの、複雑なステップワークやリフト、調和が求められ、靴やエッジを含め、同じ競技といえどシングルとは多くの違いがあります。
前編は、この大きな挑戦について、きっかけや過程、シングル時代の活躍や当時のコーチ、ステファン・ランビエールについて伺いました。
●フィギュアスケーター・島田高志郎インタビュー(後編)はこちら
アイスダンスへの挑戦
そのニュースは瞬く間に広がった。
「今シーズンから櫛田育良さんとアイスダンスカップルを結成することになりました。世界で戦えるカップルを目指し、私達にしか出来ない表現、世界観を求めて頑張ります」
シングルで活躍を続けてきた島田高志郎がアイスダンスへの挑戦を表明したのは5月9日のことだった。パートナーの櫛田は、2024年3月の世界ジュニア選手権に出場し5位、昨シーズンは全日本ジュニア選手権で3位になるなど将来を嘱望される1人だ。現在17歳、島田の6つ下になる。
あれから3カ月あまり。アイスダンスでは初めてとなるアイスショーへの出演や大会を控え練習に余念がない中、島田は姿を見せた。
「いやあ、なかなか暑さに慣れないですね」
それも無理はない。アイスダンスに転向した今は京都で練習の日々を送るが、それまでは約7年半、夏場でも涼しいスイス・シャンペリーに拠点を置いて練習に励んできたからだ。久しぶりの日本の夏は、しかも年々暑さの増す日本の夏は簡単に慣れないだろう。
種目の転向は、競技環境も含め大きな変化を生んだ。何よりも、シングルにおいて存在感を示している中での転向が反響を呼んだ。
その決断にはどのように至ったのか。まずはシングルスケーター時代を振り返りたい。
拠点をスイスへ
島田はシングルの選手として早くから頭角を現し、注目を集めてきた。小学生の頃からその年代の全国大会で活躍し国際大会にも派遣され、いずれでも優勝を経験している。
中学3年生だった2016-2017シーズンには全日本ジュニア選手権で2位、全日本選手権でも7位と健闘し、世界ジュニア選手権にも初めて出場している。
成績もさることながら、注目されたのは情感豊かな演技にも理由があった。だから人目を惹きつけた。
2017-2018シーズン、さらなる飛躍を期し、1つの行動に出る。2006年トリノ五輪銅メダリスト、ステファン・ランビエールの指導を受けるためスイスに拠点を移したことだ。
より恵まれた競技環境を得て、順風満帆にも見えた一方で、それを妨げる状況も生じていた。大きな要因は股関節の怪我にあった。スイスに渡った年にも痛め、 その後も長きにわたって苦しめられることになった。
「怪我していた時間は長いし、それこそ慢性的な症状になっていたので、ずっと付き合っていかなければいけない。手術という選択が出てきていたんですけど、手術した上でウィークポイントになってしまうことには変わりない。もちろん筋肉の強化次第で変わっていくところもあると思います。ただ、(2019-2020シーズンに)シニアになってから2、3年目には別の股関節の怪我があったり、いろいろと何かしら怪我を抱えながら生きてきたので、そこら辺の葛藤というか、苦しい時間は長かったなという風に感じます」
怪我がなければ——そう思うことはなかったのだろうか。島田は答える。
「怪我も含めてその人の実力なので一概には言えないとは思うんですけど、練習したくてもできない、もっとやりたいのにできない、それがどうしても演技に出てしまう試合がとても多かったので、悔しいというか、もどかしいというか、そういう気持ちはたくさんありました」