夫婦円満の秘訣は、性格の不一致?
暢と嵩は、余暇の過ごした方も対照的だった。
嵩はインドア派で、家で野球中継を観戦するのが好きだった。
反対に、暢はアウトドア派だ。
暢は山歩きが趣味で、頻繁に旅に出かけている。
しかも、嵩と一緒に行くことは一度もなかった。仲間と、もしくは一人で行ったという(梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』)。
暢の山歩きは、かなり本格的だった。
北海道内を20日間かけて歩き回り、大雪山系を縦走したこともある。
暢は旅の計画を立てるのにも、熱中するタイプだった。
ある時、暢が「ここはステーションホテルに泊ろう」などと言いながら、旅の計画を立てていたが、ステーションホテルとは「駅のベンチでごろ寝する」ことだったという。
暢は周囲の人々から、「よくご主人が、お許しになるわね」と言われることも、少なからずあったようだ。
山どころか平地を歩くのも面倒に感じる嵩だったが、暢の山歩きを止めるつもりはなかった。
「他人に迷惑をかけない限り、好きなことをやるのは、その人の自由であり、第三者が口出しするのは間違っている」、「共同生活は性格が不一致だからこそ、面白い」というのが、嵩の考えであったからだ。
何より嵩は、自分がまったくしないことをやるからこそ、暢が好きだった。「ヘンに上品な女でなくて、本当によかった」と、嵩は述べている(やなせたかし『アンパンマンの遺書』)。