
NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、「“逆転しない正義” 『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語」と番組公式サイトに記載があるように、『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢をモデルに描く。
物語は二人の幼少期の出会いに始まり、そしていまは、ちょうど80年前の終戦を迎え、戦前と戦後の価値観の転換(言い換えれば“正義の逆転”)に苦悩する場面にさしかかっている。今週23日の月曜日の放送では、妻・暢がモデルで、「愛国の鏡」とも称された小学校教師の主人公「のぶ」が敗戦後に教壇に立ち、子どもたちにこう言って謝る場面から入っていく。
「先生は、みんなに間違うたこと教えてきました。先生は間違うていました。ご免なさい。先生は、先生は……」
そこまで言って、子どもたちの真っ直ぐな瞳に言葉を失う。
そのシーンを観て、まったく同じ場面に遭遇した人物が私に語った言葉が不意に蘇ってきた。
その話を聞いたのは、東京地方裁判所の廊下だった。オウム真理教が引き起こした凶悪事件の中でも、坂本弁護士一家殺害事件で娘とその夫と孫を殺された遺族の大山友之さんだった。
校長先生の変節
その大山さんが終戦を迎えたのも、小学生の時だったという。
それまで、朝礼のたびに校長先生が言った。
〈いいか、お前たち! 先生が『死ね!』と言ったら、全員、戦って死ぬんだぞ!〉
それを聞くたびに、大山少年の胸は熱くなって「おー!」という気持ちになっていた。
それが敗戦と同時に、校長先生の言葉が変わった。
〈いいか、これからは民主主義の時代だ。君たちの時代だ。これからは君たちが船を漕げ〉
「あれには、参りましたね。船を漕げ、民主主義だ、って言われても、民主主義がなにかさっぱりわからない」
法廷で一家を殺害した実行犯の裁判を傍聴してきたあとだというのに、鼻で少し笑いながら当時を振り返った。