ふとしたことから、書棚から本書を取り出して読み直してみると、みるみるうちに引き込まれた。2009年に刊行された本だが(中央公論新社から刊行され、2022年には岩波書店が文庫化)、数えてみると三巡目にしてようやく著者の意図するところが肚落ちした。
本書は2024年に芸術院賞を受賞した俳人、長谷川櫂の16年前の作品だ。当時の長谷川櫂と言えば、芭蕉の「古池や蛙飛び込む水のおと」に関する新解釈を提示し、一世を風靡した俳人だった。
本書で長谷川が提唱した「和の力」というコンセプトは、単なる文化論を越えて組織経営論に多くの示唆を含んでいる。特に、自分が専門とする経営理論である「両利きの経営」の核心部分と一致していたことに驚きだった。
この国の根底にある「和の力」
長谷川は言う。この国の生活と文化の根底には、互いに対立するもの、相容れないものを和解させ、調和させる力が働いている。それが「和の力」だ。
「和」とは、やわらぐ、なごむ、あえる、互いに対立するものを調和させるという意味だ。異質なものの同士の和やかな共存こそが、この国で古くから「和」と呼ばれてきたものだという。
和風とされているもの、例えば着物、畳の部屋、茶道、生け花、和食(鮨、天ぷら、そば)、卑近な例ではラーメンに到るまで、元はといえば外国渡来のものだ。これらは長い年月の中で揉まれて、日本独自の文化として認識されるようになってきたものたちだ。
和風を解体してはぎとっていくと、最後に残るこの国独自のものといえば、緑の野山と青い海原くらいしかない。いわば、「空っぽの空間」に働いている力、それこそが日本独自のものであり、「和の力」なのだ。長谷川の発想は、心理学者の故河合隼雄の名著『中空構造日本の深層』を想起させる。




