各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介する書評コーナー『Hon Zuki !』。ノンフィクションを中心に「必読」の書を紹介します。
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 最近のアメリカ政治を見ていても、思想的なベースが全く理解できない。

 トランプ大統領は、アメリカを代表する不動産王であり、まさに資本主義の権化である。それが共和党の大統領として登場したのは理解できる。

 しかし、トランプを支持したのは、『ヒルビリー・エレジー』に登場するようなラストベルトに代表される「負け組」の白人労働者層である。しかも、この本の著者がそこから抜け出したJ・D・ヴァンス副大統領なのである。

 更にここに、アメリカン・ドリームを体現するイーロン・マスクまで登場し、GAFAMなどシリコンバレーの巨大テック企業がこぞってトランプ政権を支持するという具合である。

アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち』(井上弘貴著、新潮社)

 20世紀末のソ連崩壊以降、アメリカ発の新自由主義が世界を席巻し、それを推し進めたのが共和党、一定の歯止めをかけようとしたのがシリコンバレーに支えられた民主党ではなかったのか。

 しかしトランプ大統領の登場以来、もはやこうしたステレオタイプのアメリカ理解は通用しなくなっている。従来の右左だけの政治思想で理解できるほど、アメリカ政治は簡単ではなくなったということである。

現代アメリカの思想的潮流を解き明かす

 本書は、2024年末のトランプ大統領再選という衝撃と、それ以降のアメリカ社会の急激な変貌の背後にある、現代アメリカの思想的潮流を体系的に解き明かしたものである。

 本書ではまず、単なるトランプ現象を超えた、現代アメリカにおける右派の思想的基盤の存在を指摘し、その実態を「第三のニューライト」として説明する。