「第三のニューライト」を構成する思想家たち
●リチャード・スペンサー:白人ナショナリズムの旗手でネオナチの指導者。「オルトライト(Alt-right オルタナ右翼)」を牽引し、人種的アイデンティティを基盤にリベラル的な価値観を攻撃している。この反ユダヤ主義や白人至上主義から距離を置く人びとは、オルトライト(Alt-lite 軽めのオルトライト)」と呼ばれる別の潮流へと分岐していくことになる。
●ヨラム・ハゾニー:「ナトコン(National Conservatism 国民保守主義)」の提唱者。イスラエル出身のシオニストで、グローバルな自由主義秩序に対抗する国家主義的な枠組みを理論化し、リベラル・デモクラシーが掲げる普遍主義的価値が各国固有の文化や伝統を侵食していると批判する。ナトコンは、国家、宗教、家族といった共同体を政治の基盤とみなし、個人の自由や市場原理よりも共同体の結束と文化的アイデンティティの保護を優先する。EUや国際機関による超国家的統治、移民の増加、多文化主義などに批判的で、強い国家と独自の文化を守る政策を支持する。
●パトリック・デニーン:オバマ元大統領がその洞察力を称賛した著作『リベラリズムはなぜ失敗したのか』で有名な現代保守主義の理論家。リベラリズムが個人の自由を至上視するあまり、共同体を解体し社会の連帯を失わせたと批判する。リベラリズムが掲げる進歩や平等が、実際には疎外や不平等を助長しているとして、強力な国家権力と宗教的価値の復権を通じて新しい秩序の構築を訴える。その主張は、単なる保守回帰ではなく、リベラルの理念そのものを問い直すラディカルな側面を持ち、現代保守主義の理論的支柱となっている。
●ロッド・ドレア:世俗化とリベラル化が進むアメリカ社会において、信仰共同体が孤立を深めている現状を描き出す保守系ジャーナリストで、文化保守の論客。ハンガリーのブダペストに居を構え、『ザ・ヨーロピアン・コンサーヴァディヴ』の寄稿者として、アメリカから「文化的亡命」をしている。信仰に基づく小規模な共同体を再建し、リベラルな価値観の支配から文化を守ろうとする思想は、ハンガリーなど東欧での宗教保守政策との親和性も高く、アメリカの保守運動に新たな指針を与えている。
●タッカー・カールソン: FOXニュースを通じたヨーロッパ右派思想の紹介者として大きな役割を果たした保守系の政治評論家。ハンガリーのオルバン政権を称賛し、同政権が進める移民制限や家族政策、国家主権重視の立場を積極的に評価している。その発言は単なる報道の枠を超え、アメリカ保守層の文化戦争を煽動しつつ、ヨーロッパとの思想的ネットワークを形成する重要な媒介になっている。
●ルノー・カミュ:文化戦争の文脈において、「大いなる置き換え(Great Replacement)」が欧米の右派に深い影響を及ぼしているフランスの思想家。白人人口が移民や非白人集団によって「置き換えられている」ことを西洋文明の危機として捉え、文化的アイデンティティの喪失への恐怖を煽るこの理論は、新右翼の人口政策や文化政策に大きな影響を与え、移民制限や伝統的価値観の強化を正当化する極右や陰謀論の言説の源泉になっている。
●J・D・ヴァンス:第二次トランプ政権の副大統領として、新右翼の政治運動を牽引する、現代アメリカのポピュリスト右派の象徴的存在。オハイオ州を拠点とし、貧困層や白人労働者階級の現実を描いた自伝的著作『ヒルビリー・エレジー』で一躍有名になった。草の根運動的な支持を背景に、エリート主義への強い反発と国民共同体の再建を訴えることで、新右翼の政治的力学を体現する存在となっている。
●ケビン・ロバーツ:アメリカのカトリック系保守のシンクタンクであるヘリテージ財団の代表として、現代アメリカ保守政治の最前線に立つ存在。ヘリテージ財団を親トランプ路線へと再編し、宗教的価値観を核としながらも、経済、外交、社会政策を包括的にトランプ陣営へ供給し、「第三のニューライト」の思想的支柱となっている。