「第三のニューライト」に含まれるテック右派の思想家たち

 更に、「第三のニューライト」の中には、宗教保守とも文化保守とも異なるテック右派と呼ばれる、次のような一群が存在する。科学技術を通じて社会の再構築を志向する、シリコンバレーを中心とするテクノロジー産業の経営者や投資家たちである。

●ピーター・ティール:PayPalの共同創業者であり、著名なベンチャー起業家、投資家。「ペイパル・マフィア」と呼ばれる、テクノロジー産業の潮流を作ったグループの代表的存在。反中国・反リベラルの姿勢をとり、国家の競争力を維持するために、規制緩和とテクノロジーを組み合わせる必要性を主張する。ティールにとってのテクノロジーとは、単なる経済成長の手段ではなく、新たな世界秩序を築くための戦略的武器として理解される。

●イーロン・マスク:南アフリカ出身の実業家、発明家であり、21世紀のテクノロジー産業を代表する存在。PayPal、スペースX、テスラ、ボーリング・カンパニー、OpenAI、xAIなどの共同設立者。トランプ再選後に新設された政府効率省(DOGE)の事実上の責任者(上級政治顧問)を務めた。その思想の特徴は、技術を文明の推進力とみなす強烈な未来志向とリベラル秩序への反発が交差する点にある。

●マーク・アンドリーセン:「効果的加速主義(Effective Accelerationism)」を提唱するシリコンバレーの起業家、投資家。世界的に有名なベンチャーキャピタル会社のアンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者。技術進歩を人類の発展の根幹とみなし、規制やリベラル的制約を「進歩の敵」とする思想を展開している。

 こうしたテック右派の思想は「加速主義(Accelerationism)」とも呼ばれ、従来の保守主義が守ろうとする伝統的価値とは異なる未来志向を鮮明にしている。他方で、規制強化や気候変動政策といったリベラルな政策に対しては強い反発を示し、リベラルな価値観への批判という点においては、宗教保守や文化保守と軌を一にしている。 

「第三のニューライト」の3つの特徴

 このように、キリスト教的価値の再興を掲げる宗教保守と、国家主権や文化的アイデンティティを重視する文化保守、そしてテクノロジーを武器とするテック右派が複雑に絡み合い、従来の保守主義とは異なる新しい潮流である、現在の「第三のニューライト」を形作っているのである。

 しかもこの新右翼は、リベラル・デモクラシーを批判するだけでなく、対外政策での軍事介入などにおいて、同じ保守陣営に属する「ネオコン(Neoconservatism 新保守主義)」とも激しく対立することがある。

 本書では、こうした「第三のニューライト」に共通する特徴として、次の三点を挙げている。

 第一に、古典的自由主義への懐疑とそこからの脱却である。リベラリズムを近代の出発点としてではなく、格差や共同体の崩壊をもたらした原因として批判している。

 第二に、国家や宗教への回帰である。個人主義や市場原理主義を危険視し、強い国家権力や宗教的秩序による統治を肯定している。

 第三に、テクノロジーの積極的受容と未来主義である。特にテック右派は、科学技術を武器にリベラル秩序を超える新たな文明の構想を提示している。

 こうした宗教保守、文化保守、テック右派といった多様な潮流は決して一枚岩ではなく、互いに緊張関係をはらんでいながらも、リベラル・デモクラシーへの反発というただ一点で結びつき、今のアメリカ政治に強い影響を及ぼしているのである。

 そしてその結節点にいるのがトランプ大統領なのである。トランプ大統領自身は単なる機会主義(opportunism)のディール・メイカーであり、明確な思想を持ち合わせてはいない。しかし、その融通無碍なスタンスがこうした多様な右派思想の受け皿となり、右派の政治力をただ一点に集結させているのである。