複雑で多様な思想的潮流を持つ現代アメリカの新右翼
このように理解すると、トランプ現象というのは一時的な政治的ポピュリズムではなく、宗教的・文化的価値観に根ざした強固な思想基盤に立脚しているとも言えるのである。
人権、平等、自由といった普遍的価値の実現を目指すリベラルの主張は理解しやすい。しかし、アメリカの保守主義は単純な反リベラルではなく、歴史的・宗教的背景が複雑に絡み合っていて、とても分かりにくい。現代アメリカの新右翼は、単なる排外主義や陰謀論には還元できない、複雑で多様な思想的潮流なのである。
それと同時に、新右翼の台頭はアメリカの国内政治にとどまらず、日本を含む各国の政治や社会にも大きな影響を与えている。グローバル化の反動として、各国がそれぞれの文化的・宗教的価値に立ち返ろうとする動きが見られる中、このアメリカ発の思想的潮流は世界規模で波紋を広げているのである。
本書の意義は、こうした複雑なアメリカの思想地図を丁寧に描き出し、日本に対しても、もはやこれは「対岸の火事ではない」と警告している点にある。
その上で、アメリカの新右翼の思想を正確に理解し、なぜリベラル・デモクラシーが信頼を失ったのか、新右翼が提示するオルタナティブはどのような社会なのかの再考を、読者に強く迫っているのである。
堀内 勉(ほりうち・つとむ)1960年東京生まれ、東京育ち。東京大学、ハーバード大学大学院卒。資本主義の教養学公開講座を主催し、資本主義研究を進める傍ら、邦銀、外資系証券を経て大手不動産会社で経営に携わった経験を基に、現在、多摩大学大学院、青山大学大学院で教鞭をとる。趣味は料理、ワイン、漆器収集、読書で、軽井沢でワインバーも経営している。読書はノンフィクション中心で、ジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで、知的興味をそそるものであれば何でも。
各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります
(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)
この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。
この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。
私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。
簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。
それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。
ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。
少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。