本書はそのタイトル通り、基本的には米国において大戦終結後の秩序回復をどうするかという大きな政策決定過程を追うものです。
おおまかには(1)日米開戦前後から米国内でまず議論されはじめた日本との終戦・占領の考えかた(頭の体操!)からはじまり、戦況の進展に応じて、より具体的に日本占領とそのマネジメントについて、(2)大統領周辺の「上から」の政策の方向性の議論と、(3)国務省を中心とする官僚機構内での「下から」の政策立案プロセスを、それぞれ丁寧に描きます。
その間、国務省や軍部が関わる研究・諮問機関がめまぐるしく改組されていきます。
そんな過程を踏まえて(4)1945年のヤルタ会談からポツダム宣言、そして日本による宣言受諾に至る時期に、トップレベルと官僚レベルのすり合わせが行われて、具体的で一定の解像度をもつ終戦・占領計画が米国政府によって決定されるまでが語られます。
この部分では日本側の意思決定やソ連や中国の動きにも紙幅がさかれて、終戦というイベントが複雑で相互的なプロセスであることがよくわかります。
誰が本書を読むべきか
さて、こんなおおざっぱな本書の概略を読んで、ほんとうに上下2巻760ページ(計8000円+税)にも及ぶ本書を読む意味はあるだろうかと思う方も多いでしょう。とにかく戦争は終わってしまったのだし、その前後の歴史は高校の歴史でだいたいわかっている。コスパやタイパ(これはコスパの一部ですが)を考えるとどうなのだろうと。
それについては、本書はもちろん万人受けする書物ではないという前提を確認したうえで、次のような興味関心をお持ちの方には、あまり損はしませんよと申し上げたいと思います。
企業・政府など組織における意思決定プロセスに興味がある方、とりわけ平時と緊急時のスイッチをどう切り替えるか、あるいはイシューの重要性が上がるにつれてどのように組織を再編成していくべきか。
交渉におけるヒューマン・ファクターの現れかたに関心のある方。長い間にイシューが拡散したり収縮したりし、また関係者も流動するようなプロセスに携わる方。長期化するM&A案件や対外交渉においては、ゲームのあり方が変わっていくことはとくにめずらしいことではありません。
さらに、少壮の歴史・政治研究者の出世作の面白さを、青田買い的に芥川賞や直木賞の小説を読むように味わいたい方。そしてもちろん、戦後80年のいま、終戦後さらに7年間続いた占領期の日本の変化の源流をあらためて見直してみたい方など。
なんとなく歴史そのものが好きという方もいらっしゃるとは思いますが、ちょっと功利的な観点から本書の読みかたについてお話しできればと思います。





