学者の出世作を読むおもしろさ

 本書の著者五百旗頭真さん(面識はなく、ご存命中に何度かお見かけしたくらいですが、ある親しみをこめてそう呼ばせていただきたいと思います)は、神戸大学で長く日本政治外交史を研究し、また多くの後進を育てた教育者です。

 しかし一般には、3.11直後の2011年4月総理大臣の諮問機関として設置された東日本大震災復興構想会議議長を務めたことで知られているかもしれません。当時防衛大学校長も務めていた五百旗頭さんは、民主党政権下で官僚のお膳立てがなく有識者が好き勝手な発言をする不思議な会議の議事を円滑に進め、翌年復興庁が設置されるとその下部組織の長として助言を行いました。

 その五百旗頭さんが1970年代から始めたリサーチをもとに、彼が40代の時に著した、論壇における出世作(1985年サントリー学芸賞受賞)こそが、今回復刊された本書です。

 当時、政治学を学ぶ学生だった私にとって、立派な函入りの上下二巻本は高価すぎて手元に置くことはできず、図書館で読んだことを覚えています。自分自身、企業のM&Aのようなある種非常時の活動に携わった後本書を読み直してみて、当時は十分に気づかなかった争点の形成、交渉の機微、組織の力学について、教わることが大きいと思いました。

 また、大著ならではの、随所に挟まれる個々のプレイヤーの逸話は、それぞれが興味深く、歴史の通り一遍の「教科書」からは知りえないものです。ところどころ、ふつうの学術書にはない筆のすべりとでもいうべき記述がありますが、それもまた少壮の研究者の気負いをあらわすものとして楽しむべきでしょう。