トップの意味

 FDRは米国史上はじめて4選された大統領でした(最後の任期はじめに病死して、副大統領トルーマンが昇格し、それが政策決定過程を変えていきます)。

 彼のパーソナリティが生んだ国務長官ハルとの軋轢やソ連についての過大評価、そして日本にとっては切実な「無条件降伏」という、いっけんわかりやすいけれど実務的には意味を確定し難い形で言語化された降伏条件は、後々さまざまな議論や調整を必要としました。トップが作った(作ってしまった)よくわからないパラメータを、実務レベルで調整する経験をもつかたは、企業を含む組織では多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 そして、トップが変わったことにより異なるコミュニケーション回路が開かれることも。その過程で2発の原爆投下の意思決定もなされました。

組織の柔軟な組み替え

 本書で印象深いのは、日本との終戦・占領政策を検討・決定する組織がめまぐるしく改組され続けていることです。

 当初は国務長官のイニシアティブによる国務省内での諮問機関(そこでは外交評議会の影響も大きい)があり、かならずしも政策決定過程に直接の影響を与えなかったものの、戦況が進み日本の敗戦が見えてくると、国務省や軍政関係者が交わる組織が形成され、占領政策に係る文書を生産していきます。

 そこでの柔軟な組織変更が機能したのには、国務長官(ハル)、陸軍長官(スティムソン)などの個人レベルでの信頼とともに、その下のレベルの官僚・学者たちの間でのある共通の価値観があったように読み取れます。そこで作られた政策あるいは設計図は、後知恵ですが一定の練度があったということができるでしょう。

 実際に日本占領が実施されると、政策立案の関係者はさらに増えていきます。占領期の立役者マッカーサーは本書では脇役にとどまりますが、彼のスタンドプレーがあったとしても、後の占領政策・行政の大枠はほぼワシントンで決められていました。7年におよぶ日本占領期を考えるうえで、占領の「設計図」の形成過程が重要になるゆえんです。

 イシューの重要性の変化にともない、それへの対応過程が組織とともに変わっていくのはよくあることですが、そのような難易度の高い変化が円滑に行われるために必要なものはなにかを、本書は考えさせてくれます。