「和の力」を生かしたソフトな組織変容
長谷川の唱えた「和の力」は、単なる文化論を越えて、日本型組織のマネジメントそのものにおいても多くの示唆を含んでいる。
例えば、「和の力」を「器×プロセス」と捉えてみてはどうだろうか。組織という「器」において、「受容→選択→変容」というプロセスが進行するというイメージだ。それは「発酵」の過程に似ているかもしれない。リストラや構造改革という外科手術的な組織変革論に対する、オルタナティブとしてのソフトな組織変容論である。
組織という「器」において、自己変容の「プロセス」を進行させることは、日本型組織のユニークさと言えるのではないか。そうだとすれば、30年近くにおよぶ日本型組織の低迷は、「和の力」が十分に働いていないということだろう。
諸外国から学ぶという謙虚さを失ったこと、自分たちのやり方こそが一番だという自己満足と偏屈さに原因があるように思えてならない。自己変容のプロセスの入り口(受容)で躓いているのだ。
「和」というものを問い直す
最近の政治の世界では、偏狭な和のイメージが跋扈(ばっこ)している。過剰なナショナリズムは人々の自信から生まれるのではなく、追い詰められた人々の不安や恐怖に端を発している。熱狂的なナショナリズムの仮面をはぎとると、そこには必ず自信を喪失した人々の不安な顔がある。
80年前の日本を思い出してみるといい。「大和心」ほど誤解のあるコトバはないかもしれない。本来、「大和心」とは、猛々しい心のことではなく、本来は大いに和する心、異質なものを受け入れ、なごやかに調和している心の状態のことだ。
「和」の源流を辿っていくと、「空っぽの空間」が横たわっている。その空間には、「何もないからすべてある」という、逆説的な豊饒な世界に満ちているのだ。
本書は改めて「和」というものを問い直す絶好の書である。
加藤 雅則アクション・デザイン 代表取締役 多摩大学サステナビリティ経営研究所教授、IESE(イエセ)Business School 客員教授、エグゼクティブ・コーチ、組織コンサルタント。 2000年以来、上場企業を中心に人材開発・組織開発に従事する。経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とする。「両利きの経営」の提唱者であるチャールズ・オライリー教授の日本における共同研究者であり、同教授のコンサルティング会社Change Logicの東京駐在も兼務する。
各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります
(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)
この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。
この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。
私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。
簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。
それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。
ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。
少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。