第一次世界大戦後のドイツで起こったインフレはすさまじかった。
カフェに入ったときは、コーヒー一杯5000マルクだったのに、会計のときには8000マルクに値上がりしていたという笑えないエピソードを読んで以来、インフレという言葉を聞くと、その話を思い出すようになった。
2001年、ハンバーガーは平日限定で一個65円だったし、吉野家の牛丼は280円に値下げされた。インフレは、はるか遠い国、遠い時代の話だった。
1975年に刊行され、2010年に復刊されたこの本を読んだのは、1ドルが130円を超え、あらゆるものが値上がりし始めてからだった。この先、どんなことが起こるのか、参考になればと思った。
正直、背筋が寒くなる話ばかりだったが、とりわけ印象的だったことが3つある。
1つめは、お金の価値は、あくまでも相対的なものだということだ。あたりまえだが、私たちはしばしばそのことを忘れてしまう。
実際、ドイツの中央銀行であるライヒスバンクは「1マルクは1マルク」という原則を掲げていた。1マルクには、常に1マルクの価値があり、その価値は決して変わらないというものだ。
たしかに1マルクは1マルクであり続けたが、そのお金で買えるものはなくなった。第一次世界大戦勃発前夜の1913年、ドイツのマルク、イギリスのシリング、フランスのフランの価値は、ほぼ等しかった。1923年末には、1シリングや1フランは、最大1兆マルクと交換できたが、紙くずのようなマルク紙幣を受け取る者はいなかった。
ドイツ国民の多くは、自国の通貨価値が下がったとは思わず、ただ物価が上がったのだと思った。通貨が下がり始めてからも、ほとんどのドイツ国民は、マルクを手放そうとしなかった。




