結論から言う。本書は「敵対的買収」と「アクティビスト」を“脅威”として塗りつぶすのではなく、長期的・持続的な企業価値向上を促す外圧として読み解く実務書だ。
鍵は、アクティビズムを短期か長期かで十把一絡げにせず、どの時間軸の、どの論点に効く外圧なのかを冷静に仕分ける視点にある。
経営者、取締役、IRや法務にとって、読み終えた瞬間からアクションに落とせる。
いま何が起きているか——制度・市場の地殻変動
日本では、政策保有株と持ち合いがクッションになり、サイレント与党に守られた経営が長く続いた。著者は、その構造を制度と実務の両面から描く。
その転機が、スチュワードシップ・コード/コーポレートガバナンス・コード、そして東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請だ。
東証は2023年3月31日に、低PBR企業に象徴される資本効率上の課題へ踏み込む要請を正式に公表。規則義務ではないとしつつも、開示・対話・実行を強く促した。これがガバナンス改革を“実装フェーズ”に押し上げた事実は重い。
政府側も機関投資家の対話を後押しする。スチュワードシップ・コードは2025年6月に第三次改訂が確定し、受益者利益とサステナビリティを踏まえた“目的を持った対話”を明確化。運用機関に一段の自律的開示を求めている。投資家の振る舞いが制度で変わる流れは、もう元に戻らない。
著者の視点はその潮流と合致する。
「政府が株式持ち合いの解消を強力に政策誘導し…機関投資家がわが国上場会社の経営に及ぼす影響力が格段に強くなった」(p.96)。本書の記述は、そのまま足元の市場の体感に接続する。





