アクティビスト台頭がもたらした、強みと限界
強みとしては、資本配分の質とスピードが上がったことにある。 自社株買い・増配は過去最高水準に到達し、余剰資本の滞留が減った。これは現金を寝かせない”市場規律の復活であり、ROEやROICの底上げに効く。
ボードの“量から質”への移行が進んだ。 指名・報酬・サクセッションが“議題の中心”になり、投資家視点を持つ社外の登用や、資本コスト・株価を意識したアジェンダ運営が広がった。
市場の可視性と対話密度が上がった。 東証要請と投資家のエンゲージメント強化で、開示→対話→実行の反応速度が高まった。株主総会における賛成比率が大きく変動することは、対話の質が上がった証左だ。
一方で、日本の資本市場に残る課題としては、短期主義の副作用リスクがある。 価格攻防や“対抗的な大規模還元”は、順番と論拠を誤ると長期の競争力を削る。SC×ダイドーの一連の動きは、増配・買戻しの“設計図と整合性”の重要性を浮き彫りにした。
構造的慣性の根強さ。 政策保有株の縮減は進むが、名目だけ純投資に付け替えるなどの課題も指摘され、完全な解消には距離がある。
制度×現場の往復。本書のp.96に書かれている通り、制度の整備が投資家の行動変容を生み、市場が再活性化した。これは2023年の東証要請から2025年のスチュワード改訂と一直線でつながる。
アクティビスト多様化の把握。本書のp.243で描く“事業・財務・戦略”を突く提案の増加は、ダイドーや芝浦のケースにも重なる。価格・還元だけでなく、事業ポートフォリオと統合シナリオこそ議論の本丸だ。
ボード3.0の方向性。CGS改訂と学術提案(Gilson & Gordon)をつなげ、日本的現実解を作る視点が腹落ちする。
最良の防衛は“平時の価値創造”
“同意なき提案”は今後も増える。これは「自社だけでは価値を顕在化し切れていない」という外部診断だと受け止めるべきだ。提案が来てから打てる手は限られる。
平時から、資本効率を意識した経営に取り組み、キャピタルアロケーション(成長投資→再編→余剰還元)を明示し、ガバナンスをより一層強化し、人的資本も含めた資本効率を高めていく。
これを続ければ、短期的圧力は会社側が持つ中長期の論理で跳ね返せるし、良質な提案は取り込める。
改めて、著者の核心は明快だ。経営の目的は短期の株価ではなく、長期の企業価値だ。 株主だけではない。従業員・顧客・取引先・社会という主要ステークホルダーがこの視点を共有してこそ、企業は強くなる。本書は、そのための思考の型と実務の型をセットで与えてくれる“いま読むべき良質なアドバイス”だ。
木村尚敬ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。IGPI参画後は、製造業を中心に全社経営改革(事業再編・中長期戦略・管理体制整備・財務戦略等)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・M&A等)など、企業全般に抜本的なコーポレートトランスフォーメーション(CX)を仕掛け、企業価値向上を推進。 IGPI上海董事長兼総経理、モルテン社外取締役、LIFULL社外取締役、Japan Times ESG推進コンソーシアム アドバイザリーボード 慶應義塾大学経済学部卒、レスター大学修士(MBA)、ランカスター大学修士(MS in Finance)、ハーバードビジネススクール(AMP)
各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります
(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)
この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。
この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。
私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。
簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。
それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。
ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。
少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。