アクティビストは“外圧装置”——短期と長期を聞き分ける
アクティビストは一枚岩ではない。キャッシュ化しやすい資産を売って株主還元を厚くし、短期で抜けるスタイルがある一方、事業・財務・戦略を統合した再設計を迫るタイプも確実に増えている。
著者は「株主還元一辺倒」からの変化を本書のp.243で、明確に指摘している。現実にも、2024年の総会シーズンは株主提案企業数が過去最高圏となり、M&Aアクティビズム(非上場化やTOB関与)も活発化。件数は否決でも、企業側が事前に提案趣旨を取り込むケースが増え、市場の作法自体が変わってきた。
また株主還元の実態も動いた。自社株買いは2024年度に過去最高水準へ大きく増加し(通期で最高更新、上半期の実施企業数・1社あたり規模とも拡大)、改善圧と連動して資本配分の質とスピードが上がった。
これは“株主だけが得をする施策”ではない。不要な資産を眠らせず、資本コストを意識して再投資と還元を回す仕掛けそのものが企業の競争力に関わるからだ。
事例でみる“攻防の実務”
●ダイドーリミテッド × ストラテジックキャピタル(+村上系)
2024年4月、ストラテジックキャピタル(SC)はダイドー(東証スタンダード3205)に取締役6名の選任を含む株主提案を通知。開示によれば、SCは議決権の約32%を保有し、長期赤字や不動産運用の低収益性などを理由に、経営監督の刷新を迫った。
会社側は反対意見を公表して対抗。6月27日の総会では、SC提案の候補3名が可決され、ボードの一部再編が現実化した。直後の7月、会社は大幅増配と自己株買いを発表。これを受けSCは翌日、保有32.2%を全株売却し、世論の波紋を呼んだ。
ここに“短期か長期か”の難題が露わになる。提案で引き出された還元は短期的に株価を押し上げたが、会社側が提示した中長期目線のキャピタルアロケーション(成長投資・ポートフォリオ・人件費・B/Sの是正)とセットで評価されたかは別問題だ。
長らく日本企業は、期間損益を重視した経営に傾倒していたが、やはり資本効率を意識した経営へのシフトが急務だ。還元の是非ではなく、順番と論拠だ。増配・買戻しは「余剰資本の帰着」であって、長期の価値創造計画と矛盾しない形でなければならない。
●芝浦電子 × ヤゲオ(ホワイトナイト:ミネベアミツミ)
2025年2月、台湾のヤゲオ(YAGEO)が芝浦電子(NTCサーミスタの大手、6957)に同意なきTOBを公表。芝浦電子はミネベアミツミによるTOB(当初4500円→5500円→6200円)を支持し、ヤゲオ案に反対を表明。対抗上げでヤゲオは6635円へ、のちに7130円まで引き上げ、価格攻防が過熱した。
さらに外為法(FEFTA)に基づく安全保障審査が長期化したが、2025年9月2日に政府承認が出てヤゲオ側が前進。外資による同意なき買収に対し、日本がどこまで開かれるかを占う試金石になった。
ヤゲオは技術保護や国内投資を前面に出して懸念払拭を図った。芝浦がホワイトナイトで迎えたミネベアミツミは「これ以上は上げない」と明言して見切りをつけ、最終局面で価格主導の均衡が崩れた構図だ。
ここからの示唆は、同意なき提案は確実に増える。産業ロジック(補完・市場アクセス・規模の経済)が明快なら、資本の側から“企業経営者の経営のかじ取りに基づく価値の取りこぼし”は見逃されない。