なぜいま、イスラエルと米国はイランを攻撃?
こうした流れをすべて覆したのがトランプ氏です。2017年1月の1期目就任前から、JCPOAを「米国史上例のない、恐ろしく一方的な取引だ」と激しく非難。2018年5月には一方的にJCPOAから離脱しました。イランに対して「最大限の圧力」をかける方針に転換したのです。
他国に対してもイラン産原油の購入を禁じるなど、経済制裁は幅広い範囲に及びました。多くの国際企業が米国の制裁を恐れ、イランとの取引を控えました。
「最大限の圧力」は核開発だけでなく、イランによる中東地域での勢力拡大を封じ込める狙いがあります。米国の歴代政権は公平とは言えないまでも、イスラエルとパレスチナの和平交渉の仲介役を務めてきました。しかし、トランプ政権はイスラエルの言い分を丸のみする場面が目立つようになります。
2020年には、トランプ氏の仲介でアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルと国交を正常化しました。すでにエジプトとヨルダンはイスラエルと国交を樹立しており、中東の大国・サウジアラビアは米軍の軍事支援に大きく依存していました。つまり、イスラエルを軸にして中東の勢力図は塗り替えられていったのです。
こうした動きを前にして、イランは危機感を募らせました。段階的に核開発を進め、軍事的プレゼンスと抑止力を強化していきます。イランの弾道ミサイルは、中東の米軍基地を射程内に収めました。レバノンのシーア派組織ヒズボラ、イエメンのフーシ派、アラウィ派(シーア派の一派)出身のシリアのアサド元大統領、パレスチナ自治区ガザのハマスといった「反イスラエル勢力」への支援も拡大させました。
ところが、第2次トランプ政権のいま、イランが築いてきた抑止力にも陰りが見えるようになっています。イスラエルは2023年10月、パレスチナ自治区ガザに侵攻し、ハマスに壊滅的な打撃を与えました。ハマスに加勢するヒズボラにも猛攻を浴びせました。2024年12月には、シリアのアサド政権も崩壊しています。
つまり、イスラエルと米国は、イランの影響下にある周辺国の勢力を一定程度排除したうえで、イラン攻撃に踏み切ったと言えます。