イランの核施設への攻撃について演説するトランプ米大統領=6月21日(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
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イランを巡る情勢が混迷を極めています。イランに対するイスラエルの先制攻撃、イランによるミサイルでの反撃、イランの核施設を標的にした米軍の攻撃。戦闘が果てしなくエスカレートするのではないかと思われた矢先、米国・イスラエルとイランの間で停戦合意が電撃的に成立しました。トランプ米大統領はSNSを通じて「どうかこれを破らないで!」と呼び掛けましたが、停戦の維持は簡単ではありません。この3カ国には半世紀にわたる不信と憎悪の歴史があるからです。米・イスラエルとイランの問題と今後の見通しをやさしく解説します。

フロントラインプレス

※日本時間6月24日午後10時時点の情報に基づいています

イスラエルの先制攻撃から「停戦」まで

 イスラエル軍がイランへの攻撃を開始したのは6月13日未明のことでした。イスラエルは「イランの核開発に対する先制攻撃だ」と正当性を主張し、200機以上の戦闘機が首都テヘラン周辺の核関連施設などを空爆。これにより、イランの精鋭部隊「革命防衛隊」トップのサラミ総司令官や、最高指導者ハメネイ師の側近らが殺害されました。これまでに市民を含む死者は400人以上に達すると報道されています。

 イランも、イスラエルの最大都市・テルアビブや北部ハイファを報復攻撃し、イスラエル側にも20人を超す死者が出ています。

 トランプ氏は当初、イランへの軍事攻撃には消極的でした。ところが、イスラエルが“戦果”を挙げると、イスラエル支持に転じます。そして、6月21日、イランの核施設3カ所を空爆しました。

表:フロントラインプレス作成

 トランプ氏は「イランのウラン濃縮能力を破壊し、世界ナンバーワン・テロ支援国の核の脅威を止めるのが目的だ」と語り、ハメネイ師の殺害もほのめかしました。イランにとっては1979年の革命で今の統治体制が樹立されて以降、最大ともいえる国家存亡の危機です。

 躊躇(ちゅうちょ)することなく、ハメネイ師は米国への報復を宣言しました。ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ「ホルムズ海峡」の封鎖も示唆。インド洋に通じる重要な航路で、封鎖が実行されると、中東の産油国に依存する日本など多くの国が大打撃を受けることになります。

 そして6月23日、イランはカタールの米軍施設への空爆に踏み切りました。しかし米軍には事前に通知し、人的被害はありませんでした。トランプ氏が停戦を公表したのはその2時間後のことです。

 米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、カタールのムハンマド首相が仲介し、水面下でイランを説得したようです。カタールの米軍基地への「報復攻撃」も米側の想定内だったのでしょう。

 しかし、トランプ氏の目論見通り、停戦が遵守されるかどうかは予断を許しません。