急拡大した世界のノンバンク融資に警戒感
独ファンドブリーフ銀行協会によれば、ドイツの昨年の商業用不動産価格は前年に比べて5.4%下落し、4年連続のマイナスとなった。住宅用不動産価格の低迷も続いている。
企業倒産の急増は世界の金融市場に大きなストレスを与える。特に悪影響が大きいのはプライベートクレジット(投資ファンドなどノンバンクによる直接融資)分野だ。
格付け企業ムーディーズによれば、ノンバンク融資の資産規模は全世界で2兆ドル(約290兆円)を超え、過去10年間で6倍近くに膨らんだ。ノンバンク融資は今や企業金融で大きな役割を担う存在となっているが、依然として透明性や流動性が低くリスク評価が難しい構造のままだ。
今年に入り、借り手企業の倒産でプライベートクレジット債権の評価額が過大であった事例が相次いでおり、投資家の間で警戒感が広がっている。米国に加えドイツでも企業の倒産件数が増えれば、この傾向に拍車がかかるのは間違いないだろう。
ムーディーズが、資産運用企業を介して個人投資家の資金が急速に流入しているため、プライベートクレジット市場が不安定になっているとの見解を示したことも気がかりだ。
リーマン・ショックは信用力の低い層向けの不動産融資が元凶だったが、次は信用力の低い企業向け融資で、震源地はドイツになるのではないかとの不安が頭をよぎる。
メルツ氏が経済を一刻も早く立て直し、企業倒産に歯止めをかけなければ、強いドイツの実現は夢のまた夢に終わってしまうのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。