
ロシアやイスラエルを巡る地政学リスクの話題が絶えないが、原油価格の押し上げ効果は以前よりも弱まっている。原油価格が低迷する中、サウジアラビアは米国のシェールオイル潰しのために増産に転じたとされる。だが、そのことがサウジ自身に深刻な打撃を与える危険性が懸念されている。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=60ドルから63ドルの間で推移している。米国がドライブシーズンに入るなど原油需要が伸びる時期となったが、価格の上値は先週に比べて1ドル低下した。
まず、最初に世界の原油市場を巡る動きを確認しておきたい。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは5月28日、現在実施している日量366万バレルの減産を来年末まで維持することで合意した。
ただ、市場への影響が大きいのは、サウジアラビアやロシアなどの有志8カ国が日量41万1000バレルの増産を3カ月連続で実施するかどうかだ。
過去2カ月の決定後に原油価格はそれぞれ急落したが、市場は既に「OPECプラスを主導するサウジアラビアが、割当枠を超える生産を続ける産油国への懲罰的な措置をとる姿勢を鮮明にしているため、5月31日に日量41万1000バレルの増産を決定する」と織り込んでいるようだ。
だが、割当枠を最も超過するカザフスタン政府が「今年の原油生産量は当初計画の日量約200万バレルを上回る可能性が高い」との見解を示すなど、OPECプラスの結束の乱れはいまだに解消されていない。
さらなる波乱要素もある。