
トランプ米大統領の中東歴訪は、蜜月関係だったはずのイスラエルを訪問しないという「想定外」のものとなった。ネタニヤフ首相との確執が報じられるなか、トランプ大統領はサウジアラビアやカタールとの大型ディールをまとめている。このことは、原油市場にとって何を意味するのか。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=61ドルから64ドルの間で推移している。米中両国が関税を大幅に引き下げたことが好感され、4年ぶりの安値を付けた先週から価格のレンジ圏が5ドルほど上昇した。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
石油輸出国機構(OPEC)は5月14日に発表した月報で、OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)の4月の原油生産量は前月比10万6000バレル減の日量4091万6000バレルだったと発表した。
OPECプラスの有志8カ国は4月から日量13万8000バレルを増産するとしていたが、実際の増産量は3万バレル未満だった。米国が制裁を強化したイランやベネズエラに加え、ナイジェリアも不調だったことから、全体の生産量が減少した形だ。
OPECはさらに「非OPEC諸国の今年の生産量の伸びは日量80万バレルとなる」とこれまでの予測(同90万バレル増)を下方修正した。一方、世界の今年の原油需要は据え置いており、「需給は引き締まる」との強気の姿勢を崩していない。
ゴールドマンサックスは12日「OPECプラスは7月も減産幅を日量41万1000バレル縮小させる可能性が高いが、8月以降は未定だ」と予測した。5月、6月に続く大幅な増産だが、8月以降は原油市場の状況を見ながら判断するとの見立てだ。
原油価格の下落のせいで米国の石油産業の活動は低調となっている。
調査企業「エンベラス」によれば、米国最大の産油州であるテキサス州の4月の石油・ガス掘削許可申請件数が570件に減少し、約4年ぶりに低水準となった。
シェール企業が設備投資を縮小させる動きを強めていることから、米国の今年の原油生産量が昨年を下回る可能性は排除できなくなっている。
トランプ氏が掲げる「原油安(1バレル=50ドル以下)と国内の原油増産」という公約が達成できないことが証明されたと言っても過言ではない。
需要サイドを見てみると、米国はメモリアルデー(5月最終月曜日)からドライブシーズンに入るが、今年のガソリン需要は堅調のようだ。「景気減速のせいで航空機よりも安価な自動車が移動手段として選ばれる可能性が高い」というのがその理由だ。