米中貿易戦争の“停戦”を受けて、米国の株式相場は大きく上昇した(写真:AP/アフロ)

米中貿易戦争の“一時停戦”を受けて、米国の株式市場には楽観ムードが漂っているが、果たして安堵していいものか。実は、米中の緊張が緩和したとしても拭えない懸念がある。そもそも、トランプ大統領が目指す「貿易赤字の削減」は、深刻なジレンマを抱えている。それは何か。市場が注目する「台湾ドルショック」が、もう一つの爆弾の存在を示している。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米中の貿易戦争が一時停戦となったことで、米国株はトランプ大統領が宣言した「解放の日(貿易相手国に相互関税を課すと発表した4月2日のこと)」以前の水準にまで回復した。米ドルは急伸し、米国債市場も落ち着きを取り戻した。

 JPモルガン・チェースは5月13日、米中の暫定的な通商合意を踏まえ、「年内にリセッション(景気後退)に陥る」との従来の予測を取り下げた。

 株式市場はトランプ関税の悪夢を払拭したかに見えるが、慎重な意見もある。

 モルガン・スタンレーは13日「投資家が安堵するのは時期尚早だ」との見方を示した。「米中の貿易交渉の決裂」という最悪の事態は避けられたが、複雑かつ困難な合意をとりまとめるために90日という期間はあまりに短いからだ。

「米中間の交渉が決裂する」との不安を抱えたまま、米国の株式市場が今後も上昇し続けるのは容易なことではない。

 センチメントは回復したものの、市場関係者からは「トランプ関税は『米国』というブランドに永続的なダメージを与えてしまった。自国第一主義を掲げるトランプ政権の下、セーフヘイブン(安全な避難先)の資格を失った」との声が聞こえてくる。

 昨年の米国の株式市場の時価総額は世界全体の6割以上を占めていた。経済が好調だったとしても、行き過ぎだった感がある。

 だが、米国に対する信用が揺らぐ状況下では「米国例外主義」はもはや通用しない。米国株が今後、下落に転じたとしても不思議ではないだろう。  

 トランプ政権の貿易赤字削減の取り組みが米国株を圧迫する要因になるとの懸念も生じている。