トランプ政権、イライラの原因つくる同盟国に為替で「報復」?(写真:ロイター/アフロ)

 米中による関税の報復合戦がひとまず休戦となったことで、株式市場は大きく反発しています。一方、為替市場では、対米ドルでアジア通貨が乱高下するなど、株式市場の楽観ムードとは程遠い展開となっています。

 これまでの日米通商交渉で「為替」は議題となってきませんでした。しかし、5月20日から始まる主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で顔を合わせるベッセント米財務長官と加藤財務大臣が急遽「為替政策」について話し合うことが決まったことで、市場はドル安政策がとられることへの警戒感を強めているように見受けられます。

 というのも、米中の通商交渉で妥協に追い込まれた米国は、同盟国に対する「いら立ち」を募らせている可能性が高いからです。

(白木 久史:三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト)

米中歩み寄り後も神経質な展開続くアジア通貨

 5月14日のロンドン時間早朝、外国為替市場ではこれといった材料がない中でドル円が約1%も急落して、米中関税交渉の一時休戦から楽観ムードが支配的だったマーケットをざわつかせました。その後、「米韓の高官が通商協議で為替政策を協議する」との報道が流れたことで韓国ウォンが更に急伸し、つられてドル円もあっという間に2円以上の円高となるなど、為替市場が大きく揺れ動くこととなりました(図表1)。

【図表1:米国株とアジア通貨の推移】

(注)データは2025年4月8日~2025年5月20日、相互関税の90日間凍結が決まる前日の2025年4月8日を100として指数化。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

疑心暗鬼が続く為替市場

 しばらくして、大手通信社が米当局の関係者の話として、「米韓の通商交渉では通貨政策を合意に盛り込まない」とするコメントを流したことでいったん動揺は収まりましたが、市場ではその後も疑心暗鬼が続いているようです。

 というのも、5月初旬のゴールデンウィークには、「米国と台湾が通商交渉で台湾ドル高を容認へ」という観測記事が流れて、台湾ドルが急騰して約3年ぶりの高値を付けていたからです。台湾政府当局者は慌てて報道を否定するコメントを出しましたが、米国と台湾の通商交渉の最中で流れた思わせぶりな報道に、市場では「米国サイドが何らかの意図をもってリークしたのではないか」との思惑が飛びかう結果となりました。

白木久史(しらき・ひさし)三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト 都市銀行で資金為替ディーラー、信託銀行やロンドンの現地運用会社で株式アナリスト及びファンドマネージャー。2007年に大和住銀投信投資顧問(現三井住友DSアセットマネジメント)入社、日本株ファンドマネージャーとして中東産油国の政府系ファンドを担当。15年から米国現地法人社長、22年から現職。同社サイトでコラム「マーケットの死角」を連載

 その後、トランプ政権は関税を武器にした対中戦略の大幅な譲歩に追い込まれることになりますが、「デジャブ」のような韓国ウォン高や円高を目の当たりにして、「米国は為替をカードに改めて攻勢に出るのでは」との懸念がくすぶるのも致し方ないところでしょう。

 そして、市場参加者の間では、米中の関税合戦の過程で対中包囲網の構築に非協力的だった一部の同盟国に対して、「米国が為替による報復に踏み切るのではないか」とのうがった見方もあるようで、市場の疑心暗鬼に拍車をかけているようです。