やぶ蛇の「為替協議」を日本から切り出す不思議

 米中が相互に関税率を大幅に引き下げることで合意した翌日の5月13日、加藤財務大臣は唐突に「カナダで開催されるG7財務省・中央銀行会合でベッセント財務大臣と為替について協議する」と発言して、市場関係者を当惑させました。というのも、日本の基幹産業である自動車産業は米国市場への依存度が高く、通商交渉で為替が持ち出されることについて、日本政府は強い警戒感を持っていたからです。

 にもかかわらず、やぶ蛇になりかねない発言が日本側の高官から飛び出したことについて、「日本の対応に怒った米国が為替カードを持ち出した」と言われることを懸念して、あえて自ら持ち出して見せたのかもしれません。

 こうした日米交渉にまつわる一連の流れ、日本側の対応、そして、米国側の受け止めについては、裏取りが難しいこともあって臆測の域を出るものではないでしょう。とはいえ、誰もが知っている事実では動かない相場の特性から、「先読み」「深読み」「裏読み」が大好きなマーケットの世界では、こうした臆測が時に相場を大きく動かすこともあるため、注意が必要でしょう。

それでも「ドル高が米国の国益」なワケ

 こうした経緯を見ていくと、米国が「腹いせ」に円高カードを切ってくることに市場が戦々恐々とするのも、ある意味仕方がないように思えてきます。とはいえ、こうした懸念は杞憂に終わる可能性が高いのではないでしょうか。

 というのも、5月のトランプ関税ショックで米国株が急落した際に、米国債と米ドルが揃って売られる「トリプル安」が起こったことで、ベッセント財務長官以外のホワイトハウスの高官たちも、「市場の恐ろしさ」が身に染みているはずだからです。