以前ほど働かなくなったドイツ。写真はメルツ首相(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 深刻な不景気に陥っているドイツだが、中銀であるドイツ連銀は6月6日、今年のドイツの経済成長率がゼロになるとの予測を示した。トランプ関税やドル不安に伴うユーロ高で、頼みの輸出が低迷することをその主な理由としている。

 その他の予測機関もゼロを挟み小幅マイナスからプラスを予想と、いずれにせよ、ゼロ近傍での成長を見込む。

 通常であれば、景気が悪いのだから労働需給が緩和して、雇用者数が減るか労働時間が減るかするものである。しかしドイツの労働市場は硬直的であるため、景気の低迷に比べると、失業者の増加は限定的である。

 労働者一人当たりの労働時間についても、直近では2022年をピークに2024年までに0.4%減少したが、ほぼ横ばいだ(図表1)。

【図表1 ギリシャとドイツの労働時間(労働者一人当たりの労働時間)】

(出所)経済協力開発機構(OECD)

 労働時間がもっと減ってもいいようだが、そもそもドイツの労働者の労働時間は2011年をピークに減少が続いている。

 この間、ドイツを率いたアンゲラ・メルケル元首相やオラフ・ショルツ前首相は、保革の立場を乗り越えて国民への分配を強化し、その生活の向上に努めてきた。働かずとも豊かな生活の実現を、政策的に図ってきたわけだ。

 その結果、ドイツ人は働かなくなった。そればかりか、労働界は不況下での賃上げや週休三日制の実現など、さらなる厚遇を要求した。

 3年連続のマイナス成長が視野に入る今のドイツで、労働界による荒唐無稽な要求を受けた経済界は悲鳴を上げている。ゆえに、5月に就任したフリードリヒ・メルツ新首相に対する経済界の期待は大きい。

 景気がいかに悪くとも、最低限度の経済活動を回すためには、ある程度の労働力は必要である。しかしながら、厚遇になれたドイツの労働者は、高い給与が支払われない限り、労働力の提供を渋る。つまり、今のドイツの労働時間の減少は、不景気に伴う調整というよりも、むしろ手厚い分配の下で国民が働かなくなったことを意味している。

 対して、かつて怠け者のレッテルを張られたギリシャの労働者は、ドイツ人と異なり、働き続けている。