
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会は6月18日、化石燃料の「脱ロシア化」の観点から、同国産の天然ガスの輸入を2027年までに完全に禁止する法案を発表した。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことを受けて、EUはロシア産の化石燃料の利用を段階的に削減する方針を示していた。脱ロシア化である。
対象となる化石燃料は石炭と石油、そして天然ガスに大別される。うち石炭に関しては、そもそもEU域内での自給率が高かったこと、またロシア産の石炭に対する輸入依存度が低かったことから、スムーズな脱ロシア化が図られた。
石油についても、ハンガリーとスロバキアを除く国々において、実質的に脱ロシア化が実現している。しかし、第三国を経由するかたちで流入してくるロシア産原油も依然として存在する。
問題は天然ガスだ。EUが化石燃料の脱ロシア化を打ち出した当初より、天然ガスの脱ロシア化は困難が予想されていた。
実際、2022年から足元2025年4月までのロシア産原油の輸入量の推移を確認すると、脱ロシア化の掛け声にもかかわらず、月間200万トン前後、年2400万トン程度の天然ガスをEUはロシアから輸入し続けている(図表1)。
【図表1 EUのロシア産天然ガス輸入量(3カ月移動平均)】

パイプライン経由はともかくとして、タンカー経由、つまり液化天然ガス(LNG)の輸入が減らない点が、天然ガスの脱ロシア化の難しさを物語っている。実際、LNGの年初来累計値の推移を確認すると、2025年に入ってやや下振れしたが、2022年から2024年までの輸入の水準は、年間1200万トン程度で安定している(図表2)。
【図表2 EUのロシア産LNG輸入量(年初来累計値)】

ロシア産ガス、特にLNGの輸入削減を進めるため、欧州委員会は2025年5月に行動計画「リパワーEU」の工程表を発表。2027年までにロシア産ガスの輸入を全面的に禁止する方針を示していた。
今回のロシア産ガス排除法案はこの工程表に従うもので、欧州委員会は法的拘束力を駆使して加盟国の天然ガスの脱ロシア化を促そうとしている。