
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5月11日未明、記者団に対して、15日にも停戦を視野に入れたウクライナとの直接交渉をトルコのイスタンブールで開始したい旨を表明した。
これに先立ち、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領や英国、欧州連合(EU)の首脳陣はロシアに30日間の無条件停戦を呼び掛けていた。
プーチン大統領はその体面を保つかたちで5月9日の戦勝記念日を終えることができたため、ゼレンスキー大統領や英欧の首脳陣に対して、プーチン大統領は一種の「ディール」を仕掛けてきたのだろう。
ではなぜこのタイミングでプーチン大統領がディールを仕掛けたかというと、やはりそれはこのところの原油価格の下落にあるのではないか。
国際的な原油価格の指標であるブレント原油の先物価格は、4月以降、軟調に推移している(図表)。
5月5日には終値で1バレル当たり60.23米ドルと60米ドルの大台を割り込む寸前まで下落した。米国と中国が「相互関税」に関する共同声明を発表した12日の終値は64.93米ドルまで上昇したが、一方で先行きは不透明なままである。
【図表 原油価格の推移】

原油価格の軟調は、米国のドナルド・トランプ大統領が意気揚々と発表した相互関税を受けて、グローバル経済の成長が下押しされるという観測から生じたものだ。
5月12日に米中が関税の引き下げで合意したことでグローバル経済に対する負荷は軽減されるとの期待がにわかに高まる状況となったが、負荷そのものがなくなったわけではない。
グローバル経済には循環面からも下押し圧力がかかるため、景気はスローダウンが見込まれ、原油需要が増加する展望は描きにくい。また、サウジアラビアなど産油国8カ国が、5月に続いて6月も事実上の増産に踏み切る。より正確には、8カ国は自主減産幅を縮小するわけだが、いずれにせよ供給面から油価に下押し圧力がかかる。