米国をあえて挑発するプーチン大統領の意図とは(写真:代表撮影/AP/アフロ)
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 ロシアから原油や石油製品を購入しているインドに対して、8月後半に米トランプ政権は追加関税を50%に引き上げた。関係悪化を受け、インドのモディ首相は、7年ぶりに訪中して上海協力機構(SCO)首脳会議に出席し、習近平国家主席やプーチン大統領と肩を並べた。アメリカの二次関税はどれほどのインパクトがあるのか。この問題に詳しい、英バーミンガム大学国際安全保障教授のステファン・ウォルフ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──8月31日から9月1日まで中国の天津で開催されたSCO首脳会議で、中国、ロシア、インドの首脳が会談しました。この会談にはどんな意味があったと思われますか?

ステファン・ウォルフ氏(以下、ウォルフ):インドは西側諸国やクアッド(※)との連携を重んじるべきか、それとも中国とロシアとの関係を重んじるべきか慎重に見極めようとしている印象があります。

※Quad(クアッド):日米豪印による協力枠組み

 インドは国際社会の中で外交関係のバランスを取る努力を長年続けてきました。根底にはロシアとの連携があり、その歴史は冷戦直後まで遡ります。

 一方、この20年ほどの間、アメリカもインドとの関係構築に力を入れてきました。インドが世界最大の人口規模を持つ民主主義国家となり、国際的な関係性の中で主要な存在になってきた影響です。

 インドを押さえることで、アジアを西側にとどめておくことができます。より具体的に対中という文脈でインドを西側に引き付けておく必要があったのです。

 こうしたアメリカの試みは、ジョージ・W・ブッシュ政権の後半あたりから1期目のトランプ政権までは成功してきました。第一次トランプ政権では、トランプ大統領とモディ首相は良好な関係を見せ、バイデン政権もこの流れを引き継ぎました。

 ところが、第二次トランプ政権で、インドからの輸入品に25%の関税を課したことから両国の良好な関係は陰りを見せます。さらに、インドがロシアの原油を膨大に買っているという理由から、アメリカが関税を倍の50%に引き上げたことで、インドはアメリカとの関係を考え直さなければならなくなりました。

 その一方で、中国はインドとの関係回復に力を入れています。中国とインドは国境線を巡って争ってきましたが、中国の関係回復を目指す努力は実ってきている印象もあります。そして、インドとロシアの関係はそれなりに強固です。

 今回のSCO首脳会議は、インドにとって7年ぶりの訪中でした。中国とロシアから見れば、自分たちの同盟関係の中にインドを取り込みつつあることを強調したいということですが、インドから見れば、自分たちがアメリカからひどい仕打ちを受けているという意思表示でもあります。今後の世界秩序を考える上で、インドの動向からは目が離せません。

──中国、ロシア、インドの結束はどの程度のものだと考えるべきでしょうか?