神を信じなくなったがゆえにAIが神を代替するようになると大澤氏は語る(写真:Andrey Suslov/shutterstock)
ヘブライ大学教授で歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが、大著『NEXUS 情報の人類史』(日本語訳 河出書房新社)を発表した。この本ではどんなことが語られているのか。社会学者の大澤真幸氏に、本のポイントと議論すべき点について聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──この本がどんな内容か、教えてください。
大澤真幸氏(以下、大澤):ハラリは、現在の人文系の知識人の中では世界で最も読まれている人で、『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』や『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』などは広く知られています。
今回の『NEXUS 情報の人類史』は、AIやコンピューター・ネットワークについて書かれています。
ハラリは、デジタル・テクノロジーが専門ではありませんが、この本が優れている点は、AIと結びついたコンピューター・ネットワークを人類の歴史全体の中で捉えていることです。表層の技術的な事柄ではなく、根っこの部分を押さえようとしている。
「情報とは何か?」と題された第一章では、情報の定義が書かれています。情報とは、たんに事実を伝えるものではなく、秩序を形成するものでもある、と。正しい意思決定に導くということです。この本ではそのことを「知恵」という言葉で表現しています。情報は権力や力の源泉にもなります。
第二章・第三章はセットで考えたい部分です。ここでは、物語について書かれており、神話とも言い換えられています。
普通は主観的な現実と客観的な現実が区別されますが、さらに私たちは共同主観的現実を持っていてそれが重視されている。社会的に構築された現実ですね。その現実は物語や神話のような構造をもっていて、それを通して「我々の」という集団の共通認識やアイデンティティが決まり、秩序や目標が定まるのです。
──私たちは自分たちの現実を、ある物語として認識しているのですね。
大澤:第四章では「誤り」がテーマになっています。ハラリはここで宗教に言及しています。人間は、自分を超える神に正当性の根拠を求めます。宗教の核心は「誤りのない知能(神)と結びついている」という空想にある、というわけです。
宗教は何が正しいかという「正当性」を与えるもので、社会的な秩序を作ります。そして、AIが神や宗教の代わりの役割を果たし始めている。これが本書の基本的な認識です。
この章の後半では「科学」についても書かれています。
