韓国社会激震、大法院判決文の中身

 李氏の発言が公職選挙法違反に該当すると判断された根拠は、発言自体が虚偽とされた点だ。判決文では、被選挙人の虚偽発言が有権者(選挙人)において自身の印象を良くする可能性がある場合は、そこには表現の自由を認めることはできず、したがって公職選挙法に抵触する、といった理由が繰り返し述べられている。

 具体的には、「表現の意味は候補者個人や裁判所ではなく、被選挙人の観点から解釈されるべき」であり、「選挙に害を及ぼさない範囲で表現の自由が保障される」と明言された。

日本の最高裁に相当する韓国の大法院(写真:AP/アフロ)

 李氏は自分の発言に対する疑惑を否定する根拠として「表現の自由」を挙げているが、そうした脈絡から、本件ではそれが許容されないと断定されている。

 では、疑惑の発言と大法院の判決を見てみよう。

 李氏は土地の不正用途への変更について「国土部(部は省に相当)からの要請があった」と主張している。これについて判決文では、「国土部からの要請・圧迫を受けて、李氏は仕方なく不正用途へ変更したに過ぎないとの印象を選挙人に印象付ける」点で、被選挙人に有利になる虚偽発言にあたるとしている。そのうえで、この発言について李氏は表現の自由のもとに行っていると主張するが、大統領候補として名乗りを上げている以上、その主張は「受け入れられない」と断じている。

 判決文のなかで最も注目すべきなのは、李氏の発言は韓国の民主主義を揺るがすという内容の文言である。それが次の部分である。

「民主主義の要は公的関心事に対する自由な意思の表現と活発な討論にあり、民主主義を実現するプロセスたる選挙の過程においても、選挙の公正性を害さない範囲内において、政治的表現の自由が忠実に保証されなければならない」

 今回の大法院判決では李氏の発言が「選挙の公正性」を害するものだとする論理であり、それゆえに、民主主義の根幹を揺るがしかねないとの見解が透けて見えてくる。このことは、韓国社会に大きな意味をもつ。