大統領選が大混迷
今回の差し戻し判決では量刑が宣告されていないので、李氏の被選挙権は剥奪されていない。だが、ソウル高裁は今後、有罪を前提にしてその量刑を決めることになる。
とはいえ、1カ月後に迫った大統領選挙以前に高裁の判決が下される可能性は、時間が足りないためにあり得ないと報じられている。つまり、大法院は李氏が有罪であり民主主義を揺るがしているという見解を表明することで、その人物を大統領に選ぶかどうかの判断を国民に委ねたのだ。
まさに疑惑の渦中にある大統領候補者を生かしもせず、殺しもしない判決文であった。
では、李氏の対抗馬はいったい誰なのか。
その筆頭は、大法院判決の翌日に出馬を表明したばかりの韓悳洙(ハン・ドクス)前首相なのだろう。国民の力では現在2人が党内の予備選挙を争っているが、この2人では李氏の対抗馬として選挙を戦えないとの見方が強い。そのために、数カ月前から韓氏待望論がささやかれてきた。
とはいえ、現時点では今後を予測することは困難である。李氏は大法院判決を受けて「結局のところ、政治は国民がするもの」と発言し、自分の今後の身の上を国民の判断にゆだねるという謙虚な姿勢を示した。
これを韓国人はどう判断するのか。残り1カ月に迫った選挙戦の行方を見守りたい。
平井 敏晴(ひらい・としはる)
1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。