
(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
5月1日は、韓国大統領選挙に向けた潮目の変わる重要な日となりそうである。
尹錫悦大統領が弾劾され、大統領選挙の日程が6月3日に確定した頃は、次期大統領レースの行方は最大野党「共に民主党」の李在明代表の独走状態にあった。ただ筆者は「選挙まで60日あれば何が起きるか分からないのが韓国の内政である」との私見をこのJBpressへの寄稿で披露した。
また、「国民の力」では抜きん出た候補者はいなさそうで、中道派の韓悳洙(ハン・ドクス)大統領代行を、中道層から保守層にかけての有権者を取り込むための有力候補にしようとの動きがあることも紹介した。
(参考記事)「李在明独走」と思われた韓国大統領選、トランプに出馬の意向を尋ねられた「韓悳洙」が対抗馬に急浮上(2025.4.14)
その2つの動きが交差したのが、まさに5月1日だった。そのうえ、大統領代行を務めるはずだった崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相が、野党の圧力で辞任し、内政の混乱に拍車がかかることになったのも、この日であった。
李在明氏と共に民主党にとって予想外だった「差し戻し」判決
大法院は、1日の全裁判官出席による大法廷において、「『ゴルフ発言』と柏峴洞(ペクヒョンドン)関連発言は公職選挙法第250条第1項に基づく虚偽事実公表に該当する。(ソウル高裁における)2審の判断には公職選挙法に関する法理を誤解し判決に影響を及ぼした誤りがある」として、李前代表に無罪を宣告した原判決を破棄し、ソウル高裁に差し戻した。
李前代表は、大統領候補だった2021年12月、疑惑がもたれている城南都市開発公社による大庄洞開発に関し、実務責任者だった故キム・ムンギ開発第1処長について「キム処長を知らない」「一緒にゴルフしたとされる写真は捏造されたもの」と発言した。また国政監査では城南市柏峴洞の韓国食品研究所用地の用途変更過程で国土交通省の脅迫があったと話していた。これらの発言について、虚偽事実を公表した容疑で起訴されていた。
第一審のソウル地裁では罰金100万ウォン、懲役1年・執行猶予2年を宣告されたが、第二審ではいずれも無罪を言い渡されていた。これを受け検察が大法院に上告していた。
韓国の公職選挙法は、100万ウォン(約10万円)以上の罰金刑を受け、有罪が確定した場合は、被選挙権を5年制限すると決めている。大統領選までの期間が短いことから大統領選よりも前に確定判決が出る可能性は低いと見られている。つまり李前代表の有罪は確定していないので、李前代表が大統領選に出馬することは可能である。ただ、そこで仮に李氏が勝利し、さらに選挙後に有罪が確定すれば、「そもそも被選挙権がなかった人物が大統領選に出馬した」ということになり、韓国政界は再び大混乱に陥るだろう。