関税については、朝令暮改で、方針を次々と変える。市場は混乱するし、世界中が迷惑を被っている。4月23日は、中国に対する145%の税率を大幅に引き下げると意向だということが報道された。具体的には、50%〜65%に引き下げ、安全保障上の脅威にならない商品については、35%にするという。

 中国は、報復としてアメリカに125%の関税を課しているが、1年前から周到に報復の準備をしており、どの商品を禁輸対象にすればアメリカが困るかを見極めてきた。レアアースなどがその典型例である。我慢比べで、先に音を上げたのはアメリカのほうである。

 朝令暮改のもう一つの例は、パウエルFRB議長の解任問題である。トランプがパウエルの解任を目論んでいると報じられると、ドルへの信頼が失われ、株式市場が急落した。そこで、急遽、方針を転換し、解任する気はないと述べたのである。

ウクライナ停戦…公平さを欠く仲介役

 関税をはじめ、トランプの経済政策は経済学的にもデタラメであるが、まだ経済分野については、「取引(ディール)」を主張するのは理解できないことではない。しかし、政治や安全保障は、ディールには適切でない点が多々ある。政治はビジネスとは異なるのである。この点をトランプは全く分かっていない。

 ウクライナやガザに平和をもたらそうという決意は良い。しかし、手法が問題である。

 第一に、停戦の仲介者は、交戦国双方に公平でなければならない。その点では、トランプは、ゼレンスキーよりもプーチンの主張により耳を傾けている。また、ガザについても、明確にイスラエル支持であり、アメリカの大学でパレスチナ支持派を弾圧している。

トランプ大統領が肩入れするプーチン大統領=4月24日(写真:ロイター/アフロ)

 この姿勢で停戦を仲介しても、ウクライナやパレスチナには大きな不満が残るであろうし、恒久的な平和につながるかどうかは分からない。

 第二に、和平交渉は、ビジネスの取引とは異なる。とくに領土については、ナショナリズムと結合しているので、物々交換のような安易な取引は禁物である。

 第一次世界大戦後、戦勝国は、敗北したドイツの多くの領土を奪ったが、そこにはドイツ人が住んでおり、併合された国(たとえばチェコスロバキア)で差別的な扱いを受けた。そのような状況をナショナリズム発揚に利用したのがヒトラーのナチスである。ヒトラーは、政権獲得後、それらの失われた領土を奪還し、大人気を博した。

 クリミアや東部4州をロシアに渡してしまえという方針では、ウクライナはトランプ提案を受け入れることはできないであろう。

4月24日、ロシアはウクライナの首都キーウに大規模攻撃を仕掛けた(写真:AP/アフロ)

 第三に、停戦後に、アメリカがウクライナの鉱物資源を入手しようという発想は、不動産屋的ビジネスそのものである。ウクライナの資源は、アメリカ人のものではなく、ウクライナ人のものである。トランプによれば、ウクライナへの武器支援などの見返りに資源をよこせということである。まさに、あざとい商売人の発想である。

ロシアのミサイル攻撃で倒壊した建物にいた17歳の友人とその両親の捜索状況を見守る若者たち=4月24日、キーウ(写真:ロイター/アフロ)
倒壊したアパートの瓦礫の中から17歳の友人の遺体が発見され、泣き崩れる少女(写真:ロイター/アフロ)