「トラブルになった大工を斬りつけて獄中死した」との説
源内がどのような最期を迎えたのか。その経緯については諸説あるが、そのうちの一つが、次のようなものだ。
とある大名の別荘修理の見積もりについて、大工の久五郎とトラブルになった源内。そこで実際に話し合いを行ったところ、2人は和解し一緒に請け負うことで話がつく。
そのままの勢いで2人は酒を飲み明かし、いつのまにか寝てしまった。源内が起きてみると、見積書がなくなっている。久五郎が盗んだに違いないと追及する源内。久五郎が否定するのも聞かずに、刀で斬りつけて殺害してしまう。
だが、しばらくして、手箱の中からなくなった見積書が発見され、すべては自分の勘違いだと気づいた源内は絶望する。自害しようとするも周囲に止められて、投獄。自殺しようとしたときの傷から破傷風にかかり、52歳で獄中死した──というものだ。
勘違いで人を斬り殺して獄中死とはあまりに悲惨だが、『べらぼう』では異なる展開になっている。
丈右衛門(じょうえもん)という旗本の用人が、家の普請をしたいということで、源内が図面を引き、大工の久五郎が工事を行うことになった。ただ、源内が蔦重に久五郎のことを「煙草屋な!」と笑って紹介しているように、久五郎はただの大工ではなく、うまいタバコを持ってきてくれるのだという。
だが、実はその甘い香りのタバコは幻覚や幻聴を引き起こすもので……と、家基の死と同じく源内と久五郎の関係をミステリー仕立てにしている。