必ずしも最優先の争点ではない防衛体制の強化

 それに、フランス国民の間で防衛体制の強化に対するコンセンサスが必ずしも形成されていないという点も重要である。

 防衛体制の強化が最優先課題なら、それで経済が圧迫されても国民の理解を得ることはできる。ポーランドやバルト三国のように、ロシアと国境を接するEU加盟国では、そうしたコンセンサスは、ある程度は形成されている。

 それに対して、ロシアからある程度離れているフランスでは、そこまで国民の危機感は高まっておらず、その意味で防衛体制の強化に対する国民の理解も進んでいない。マクロン大統領が防衛増税の可能性を当初から否定していたのは、民意の理解を得ることができないからだ。強硬に進めれば、自身の支持率のさらなる低下につながる。

 フランスは2027年に次回の大統領選を予定している。すでにマクロン大統領は二期目であるため、憲法上の多選規定に基づき、次回の大統領選には出馬できない。一方で、1977年生まれとまだ若いマクロン大統領としては、後継の候補を擁立し、フランスおよびEU政治のキングメーカーとして、影響力を行使し続けたいところだろう。

 また、マクロン大統領の最大の政敵であり、右派政党である国民連合(RN)を率いるマリーヌ・ルペン氏が次期の大統領選へ出馬できなくなった。3月31日、パリの裁判所が資金の不正流用を理由にルペン氏の被選挙権を5年間停止したためだが、こうした追い風が吹いている中で、マクロン大統領は危ない橋を渡ることなどできない。