ワインディングロードでの走りは「ヴェゼル」より好印象
まずは全体的な印象から。これ1台でファミリーユースをすべてこなしたいというアジア新興国のユーザー向けの商品特質がはからずも日本の平均的な大衆車ユーザーのライフスタイルによくマッチするクルマだった。

動力性能、経済性、走行性能、快適性といった動的な部分については傑出したところはないが、全長4.3m級という使いやすいサイズに豊かな居住スペースと広大な荷室がパッケージングされ、日常ユースから大量の荷物を載せるレジャーまで多目的に使える。
そして価格は低車高ハッチバックよりは高いものの、今日のクロスオーバーSUVとしては比較的安価。似た特質を持っているモデルに全長4m級のダイハツ「ロッキー」/トヨタ「ライズ」がある。それをそのまま拡張し、安定性やロングドライブ耐性を大幅に引き上げたような感じである。
ホンダはクルマ作りのフィロソフィとして「メカ・ミニマム/マン・マキシマム」を標榜している。先進国市場ではユーザーニーズの多様化でそれを徹底させるのが難しい状況だが、見栄えより実用性という新興国モデルではそれがプラスに作用する。もともとホンダはこういうクルマ作りのほうが得意だったということを思い出させるようなモデルだった。
では要素別にもう少し細かく見ていこう。ドライブフィールや乗り心地は今日のホンダの先進国モデルと少なからず異なる。
最近のホンダはボディの“しなり”をコントロールするダイナミック剛性の設計を安定的に大量生産に反映させる工法をレベルアップさせており、それによって同社のモデルの走りや乗り心地の質感はここ10年ほどで大幅に向上した。それに対してWR-Vはとにかくボディを頑強に作って変位を抑え込むスタティック剛性を徹底重視しているように思われた。
特に路面状況の悪い道を通るとき、その違いは割と顕著に感じられる。路面が大きくうねったところを通過して車体がロール方向に大きく揺すられた時、車体のドンガラがまったく変位せずそのままの形で揺れているような感触なのだ。

WR-Vは一般的なモノコックボディだが、ちょっとしたクロスカントリー4×4のようなフィールである。ホンダに限らず最近の先進国向けモデルはダイナミック剛性重視の設計を持っており、筆者もそれにすっかり慣れきっていた。ゆえに昔だったらそれほど意識しなかったであろう違いが大きいものに感じられたのだろう。
いささかノスタルジックなこの特性は、道路事情の悪いインドへの適合性を高めるためのものと考えられる。これは決して悪いということではない。路面コンディションの良い道での乗り心地の滑らかさではヴェゼルに負ける半面、このテストで走ってみた茨城の表筑波スカイラインのようにダイナミック剛性の繊細なチューニングが意味をなさない大きな路面からの入力が連続する老朽化路線では、逆にどんな荒れでもどんとこいという大船に乗ったような気分でいられた。
筑波山の稜線と平地を結ぶ路線にはローリング族がかっ飛ばすのを防止するための突起が方々に設けられている。一定速度を超えると途端にガタン、ガタンと強烈な突き上げを食らうようになるのだが、WR-Vがそうなるスピードは他のクルマで走った時に比べてかなり高かった。テスト時も先行車がその乗り越えを嫌っているのを後ろから涼しい顔で見ているという状況だった。

走りの性能自体は高重心のクロスオーバーSUVゆえ大したものではないが、カーブにおける前後サスペンションのロールバランスが良好で、ハンドリングは思ったより機敏。ヴェゼルに装備されている左右輪駆動力配分機構「アジャイルハンドリングアシスト」は未装備だが、ワインディングロードでの素直な走りはヴェゼルより好印象だった。