メインターゲットのインド市場で存在感を発揮できない商品戦略の「甘さ」

 このようにクルマとして高性能、高品位というわけではないものの、一家に一台、あるいは複数所有でもメイン車として過不足なく使えるクルマという“ちょうどいいホンダ”感を持っていたWR-V。ハイブリッドというキラーコンテンツを欠いているにもかかわらず販売好調というのもある程度うなずけるものがあった。

ホンダWR-VホンダWR-V(筆者撮影)

 ところが興味深いことにこのWR-V、メインターゲットのインド市場では存在感を発揮できず販売不振に陥っているという。

 インドの乗用車市場は先進国的な高級車、排気量1.2リットル超の上級車、排気量1.2リットル以下の大衆車の3カテゴリーに分かれており、大衆車はマルチスズキが圧倒的な強さを示している。

 ホンダはそのマルチスズキとの直接対決を避け、エレベイト(WR-V)を1.5リットルクラスの上級車仕立てとしたが、顧客に受け入れられず、インド工場の生産ラインを2本から1本に減らしてもなお工場の稼働率を保てないという苦境にあった。

 新興国の上級ユーザー向けという商品性がはからずも日本の大衆車層に受け、日本への輸出でインド事業が一息つくというのは面白い巡り合わせだが、経営企画、マーケティング的視点では偶然の産物でしかない。

 昨年12月以来世間の耳目を集めているように、ホンダは日産自動車と経営統合するという方針を発表している。ヘッドクオーター機能を持つ持ち株会社を作り、ホンダと日産の両社がそれにぶら下がる形での経営統合となる見通しだが、持ち株会社のボードメンバーはCEO(最高経営責任者)はじめ過半をホンダ出身者が占めることになるという。

 つまりホンダ日産連合の経営判断は事実上ホンダが行うことになるのだが、そこでネックとなるのはホンダ自身が四輪車事業のビジネスがうまいわけではないこと。空振りが多く、利益率も低い。もしホンダに昔の「オデッセイ」「フィット」、近年では第1世代「ヴェゼル」などの“神風”がなかったら、日産とあまり変わらない状況に追い込まれていてもおかしくはなかった。

 WR-Vが日本のユーザーから好評を博したことはホンダにとって喜ばしいことではあるが、もともとの第1タスクはインド市場の攻略。それに失敗したのは商品開発のターゲティングが甘かったことを意味している。なぜうまくいかなかったのかをホンダの経営陣は事実ベースで検証し、商品戦略の立案力を磨く必要があろう。

 クルマのハードウェア作りについてはホンダ、日産とも本当に非凡なものを持っているが、戦略がまずければそれは生きない。万が一アライアンスのコントロールを誤り、ホンダのせいで立ち直るものも立ち直らなくなったなどということになれば日産からの恨みを買い、アライアンスが空中分解することにもなりかねない。

 アライアンス自体が本当に成立するかどうかはまだ確定していないが、仮に無事に経営統合を果たしたとして、ホンダが背負う責任は単独時代よりはるかに大きいものになる。そこでホンダが一皮むけるには、単にいいクルマを作るというだけでは足りない。そんなことも何となく考えさせられたWR-Vのロードテストだった。

ホンダWR-VのフロントフェイスホンダWR-Vのフロントフェイス(筆者撮影)

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。