場の量子論と超弦理論

野村:ニュートン力学は、物体の速度が光速と比較して著しく遅い場合にしか使えません。

 このニュートン力学を、光速や光速に近い場合にまで適用できるように拡張したのが特殊相対性理論です。けれども、ニュートン力学にも特殊相対性理論にも、量子の効果は入っていません。

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 そこに量子の効果が入った理論をつくったのがハイゼンベルクとシュレディンガーです。これがいわゆる量子力学です。

 彼らによって完成された量子力学は、ざっくり言うとニュートン力学の量子版のようなものです。そのため、量子の効果が無視できる場合を考えれば、ニュートン力学に落ち着きます。

 ただ、このバージョンの量子力学が使えるのは、あくまでも対象物の速度が遅い場合のみです。それに対して、光速やそれに近い速さをも含む場合を議論できる量子力学が「場の量子論」です。要するに、特殊相対性理論的量子力学です。

 場の量子論で速度が遅くなっていくと、ハイゼンベルクやシュレディンガーの量子力学を再現します。また、量子の効果があまり重要でない場合は、特殊相対性理論に落ち着きます。当然、量子効果が無視できて速度も遅い場合には、ニュートン力学が再現されることになります。

 とはいえ、場の量子論もまだ十分ではありません。というのも、まだ重力が完全な形で含まれていないからです。場の量子論は基本的には特殊相対性理論的量子力学ですから、重力の存在が一般的な形では考慮されていません。僕たちには、重力を含む「一般相対性理論的量子力学」が必要なのです。

 一般相対性理論と量子力学を統合するために、考え出されたのが、超弦理論です。超弦理論では、僕らのいる世界は空間9次元と時間1次元を持つ10次元になります。むちゃくちゃに感じられるかもしれませんが、一般相対性理論と量子力学をくっつけると、なぜかそうなるのです。

 この場合、私たちが直接感知できない6次元分の空間は、小さく丸まっていると考えることになります。

 超弦理論は、数学的にも非常に豊かな理論で、方向性としては間違っていなさそうに見えます。ですが、完全な量子的重力理論は、まだ完成したとは言えないのが現状です。

野村泰紀(のむら・やすのり)
カリフォルニア大学バークレー校教授/バークレー理論物理学センター長
1975年、神奈川県生まれ。ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構研究員、理化学研究所客員研究員を併任。主要な研究領域は素粒子物理学、量子重力理論、宇宙論。1996年、東京大学理学部物理学科卒業。2000年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。