シュレディンガーより早かったハイゼンベルク

野村:実際、その後、この関係式は光や電子に限らず、すべてのものに当てはまる自然界の一般的な性質であることが示されました。私たちの世界は、波の性質も粒子の性質も示すなにものか、すなわち「量子」でできていたのです。

 その後、この量子が従う基本的な方程式、つまりニュートン力学でいうところのma=F(質量×加速度=力)のような方程式を作りたい、ということで誕生したのが量子力学です。1925年のことでした。

──それが有名なシュレディンガー方程式ですか。

野村:いいえ。実は、ドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクは、シュレディンガーとは全く別の方法で、量子の振る舞いを計算するための方程式を考え出しました。それが1925年だったのです。

 ハイゼンベルクが使った手法は行列です。彼のアプローチは、一般的な原子などを扱う場合は少し使い勝手がよくなかったようです。そのため、今では量子力学の基本方程式としてはシュレディンガー方程式のほうが高い知名度を誇るようになりました。

 しかし、現在になって、量子のスピンや量子ビットについて考える際には、ハイゼンベルクの手法のほうが使い勝手が良く、彼が考え出した方程式もよく利用されています。

 ちなみに、シュレディンガーが、波に基づいた記述ができる波動関数を含むシュレディンガー方程式を発表したのは、ハイゼンベルクから遅れること1年、1926年のことでした。

──書籍中では量子力学と相対性理論を統合する試みの中で「場の量子論」が誕生したという話がありました。

野村:ここで今一度、ニュートンによって確立された力学に立ち返ってみましょう。