ようやくわかった光の正体

野村:ところが、ニュートン力学とマクスウェル方程式を解くと、ラザフォード模型のような原子構造は存在できません。なぜかと言うと、電子が陽子を中心にして回っているということは、電子は加速しているということです。でなければ、前編でお話しした月と地球の場合と同様、電子は直線運動でどこかへ飛んでいってしまいます。

 一方、マクスウェル方程式を解くと電子が加速すると光を放出することがわかります。光が放出されれば、それだけ電子のエネルギーは失われます。そうなると、ニュートン力学では、エネルギーを失った電荷の軌道半径はどんどん小さくなっていきます。つまり、電子が陽子のほうへ落ち込んでいってしまう。

 この電子が原子の中心まで落ち込むまでの時間を計算すると、10のマイナス11乗秒というとんでもなく短い値で、これでは原子はあっという間に壊れてしまいます。でも、現実の原子はそのように壊れることはありません。

 この問題を解決するため、デンマークの物理学者ニールス・ボーアは1910年に「原子中の電子は、ある特定のとびとびの軌道しかとることができない」という説を考え出しました。この場合、電子は一番内側の軌道よりも陽子に近づくことはできないので、原子は壊れようがありません。

 実際に水素原子を観測すると、ボーアの説と一致する結果が得られました。ただ、ボーアはなぜ電子の軌道がとびとびであるかというところまでは突き止めることはできませんでした。

 そこに登場したのが、フランスの物理学者ルイ・ド・ブロイです。彼は、電子は粒子だとされているが、波の性質を持っていてもいいのではないかと言い出しました。

 電子が波であるとすると何が起こるかというと、干渉です。この干渉の結果、電子の取り得る軌道は、その一周の長さが電子の波の波長の整数倍のようなものに制限されます。それ以外の場合では、波が自分自身と負の干渉をして消えてしまうのです。

 そして、このようにして求めた軌道は、ボーアの仮定した軌道と完全に一致しました。

 電子が波として振る舞うときの波長は、粒子として振る舞うときの運動量と一対一の関係にあります。ド・ブロイは、この関係式が光量子仮説でアインシュタインが提唱した「光量子の運動量と波長の関係式」と全く同じものであることを突き止めました。1920年代のことです。

 これにより、アインシュタインの「光量子の運動量と波長の関係式」は、光の性質ではなく、電子も含むより多くのものに当てはまる性質であることが示唆されました。