アサド支持者の陣営などは盛んに「シリアのアルカイダ」「アルカイダを源流とする過激派組織」と宣伝し、そのまま報じるメディアも少なくなかった。しかし、現在のHTSを過激派と見るのは間違いだ。アルカイダが源流でもないし、別にいる「シリアのアルカイダ」とは敵対関係にある。「シリアのアルカイダ」「アルカイダを源流とする過激派組織」とする説明はいずれもフェイク情報なのだ。

 しかも、その足跡をみると、彼らは実質的にアルカイダとさほど関係していないし、アルカイダのテロに参加したこともない。一貫して反アサド闘争のみに従事してきた。特にHTSを率いるアフメド・シャラア(ゲリラ名「アブ・ムハマド・ジャウラニ」で知られるが、闘争は終了したとして本人は本名に戻している)と彼の仲間グループは、仲間内から偏狭なイスラム強硬派を排除し、穏健派と手を組むことを長年続けてきている。その足跡を振り返ってみよう。

ダマスカスへ入城しアサド政権打倒を宣言した後、演説を行うシリア反体制派HTSの指導者、アフメド・アル・シャラア(2024年12月8日、Balkis Press/ABACA/共同通信イメージズ「ABACAPRESS.COM」)

「アルカイダ」と「イラクのアルカイダ」は別組織

 HTSの源流は、2003年のイラク戦争(米国主導の多国籍軍とイラク軍の戦争)に参加したシリア人義勇兵たちだ。当時、シリアでは複数のイスラム系団体が「米侵略軍と戦ってイラク人を助けよ」と志願兵を募っていて、多くのシリア人義勇兵がバスでイラクへ渡った。ほぼ全員が敬虔なイスラム教徒で、それがイスラムの同胞を助けるジハード(聖戦)と考えていた。イラク戦争開戦直前にイラク入りしたグループの中に、当時20歳のアフメド・シャラアもいた。

 シャラアたちシリア人義勇兵の多くは、イラク戦争での米軍勝利後の反米軍ゲリラ闘争時代に、ヨルダン人の反米ゲリラ指導者であるアブ・ムサブ・ザルカウィが率いる「ジャマート・アル・タウヒード・ワル・ジハード」(「唯一神信仰と聖戦の集団」)に参加した。ザルカウィはアルカイダと人脈的には繋がっているが、彼のグループはアルカイダとはまったく別で、彼自身のものだった。

各組織の関係のイメージ
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