吉田氏が続ける。

「あんな食生活をずっと続けていたらいずれまた体を壊すと思っていたのですが、そんなときに早貴被告と入籍したのです。その時までに早貴被告もドン・ファンと一緒に食事する機会は何度もあったので、彼の濃い味好みは理解していたはずです。

 それだけに早貴被告がドン・ファンの急逝を願っているのだとしたら、結婚してから『どんどん食べて』といってこってりした料理を連日勧めればいいし、セックスの相手をしたくないのならば、そこは以前からドン・ファンが付き合っている愛人にアシストしてもらえばいい。そうすれば、そう遠くないうちに、好きなものを食べ、好きな女性とのセックスを愉しんだドン・ファンは寿命を全うしたとも思うのです。

 ところが検察が主張するストーリーの通りだとすれば、早貴被告はそれを待たずにリスクを冒して自らの手で葬ることを当初から考えていたことになる。そこがひっかかるのです。たとえば誰かに覚醒剤を使って殺人を犯すよう吹き込まれていたのか……」

 いや、もしかしたら、早貴被告には急に野崎氏を殺さなければならない必要に迫られていた可能性もある。吉田氏が続けて解説する。

再び離婚を切り出される前に先手を打ったのか…

「ドン・ファンは亡くなる当日の5月24日夕方4時、ボクに電話してきました。以前から『田辺の家に来てほしい』としつこく言われたので、そこでしぶしぶ『明日行きます』と答えたんです。当時ドン・ファンは、家にいてもつれない態度の早貴被告に愛想を尽かしており離婚したがっていました。別に結婚したいと思っている女性もいた。ただ以前、早貴被告に署名済みの離婚届を突き付けたところ、目の前でビリビリに破かれたことがあったのです。そこで離婚に応じるよう早貴被告を説得させるためにボクを呼んだのだと思います。

 おそらく、早貴被告はドン・ファンとボクの電話のやり取りを聞いていたのではないでしょうか。そこで翌日ボクが田辺の家に来れば離婚をさせられるかも知れない、そうしたら遺産は手に入らなくなる、と考えた。そこで密かに温めていた殺人のプランを実行に移した可能性があると思うのです。たとえば、覚せい剤入りのカプセルをドン・ファンに渡し『これを飲んで私がお風呂から戻ってくるのを待って』とか言い残して1階のお風呂に行ったとか……。だとすれば、そのプランは大下さんが戻ってくる午後8時頃までには完遂しなければならないと考えたはずです」

 離婚に向けて動き出した野崎氏の先手を打つため、その日のうちに覚醒剤による殺害に手を染めたのか。果たして和歌山地裁はどのような判断を下すのか――。