それでも「危険運転致死傷罪」でなく「過失運転致死傷罪」

 あまりの内容に驚き、思わずメールを何度も読み返しました。

 私自身、長年にわたって交通事故の取材を続けてきましたが、日本の交通ルールをあざ笑うかのようにことごとく法規を無視していたこの加害者の悪質さは、これまでに出会った数多くのケースの中でも、間違いなく「最悪」といえるものでした。

 しかし、続きのメッセージを読み、さらに愕然とさせられました。なんと本件は、『危険運転致死傷罪』(最高懲役20年)ではなく、より刑の軽い『過失運転致死罪』(最高懲役7年)で起訴されたというのです。

〈なぜこの事故が過失なのか? 名古屋地検には何度も危険運転で起訴すべきだと訴えました。しかし、返ってくるのは、「本件には危険運転にあたる要件はひとつもない」という答えでした。「たとえ飲酒していたことが事実でも、逮捕されたあと片足でまっすぐに立てた」「逆走は危険運転には当たらない」「無免許でも、長い間乗っていれば技術がある」検察官はそんな屁理屈を繰り返すのです。実は、加害者はハロウィンパーティーでテキーラ6杯、ビール3杯を飲み、別のパブへ移動する途中、他の車と衝突事故を起こして逃走中でした。これではまさに、「逃げ得」ではないでしょうか……〉

 このとき、すでに初公判は済み、第2回公判は20日後に予定されていました。「危険運転致死傷罪」で立件するための構成要件がかなり厳しいことは、過去の事例から十分に理解しているつもりでしたが、これほどの違反を重ねた悪質な死亡事故が、なぜ危険運転に該当しないのか、私には検察が遺族に説明したその理由が解せませんでした。

 すぐに電話を入れると、眞野さんは声を振り絞るようにこう言いました。

「柳原さん、私はただ遺族感情を振りかざして、加害者を厳罰にしろと言っているんじゃありません。交通事故にはどうしても避けられないような不幸な事故もあるはずです。私も普段、仕事で毎日のようにクルマを運転しますから、死亡事故だからと言って、すべて厳罰化だ、懲役だと言うつもりはないのです。でも、今回の息子の件は、どう考えてもうっかり事故なんかじゃない。加害者は酒を飲んでハンドルを握った、それ以前に無免許です。クルマを運転する資格がないんです。それはもう、過失では済まされないと思うんです」