24歳で亡くなった河本恵果さん。母親と同じ看護師の道を歩み始めていた(遺族提供)
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刑事裁判の現場ではいま、有罪・無罪の事実認定や量刑に影響を及ぼしかねない深刻な問題が起こっている。被害者の遺体や傷口、血だらけの現場や凶器の写真、犯行の映像などが、裁判員の心にトラウマを残す「刺激証拠」とされ、イラストなどで代用するケースが増えているというのだ。11月26日には国会でもこの問題が取り上げられた。そんな中、「イラスト化以前に、刺激証拠が裁判からすべて排除された」と無念さを訴える被害者遺族もいる。ノンフィクション作家の柳原三佳氏が取材した。

国会質問でも指摘された「刺激証拠」の問題

 11月15日、〈「刺激証拠」のイラスト化 隠される真実〉と題されたシンポジウムが都内で開かれました。当日の模様は、以下の記事で取り上げたとおりです。

(参考)犯罪の凄惨さ伝える写真は「刺激証拠」、裁判員が衝撃受けぬようイラスト化…遺族憤慨「それで真実究明できるのか」(JBpress 2025.11.21)

 そして、この記事の発信から5日後の11月26日、国会の衆議院法務委員会で、この問題が取り上げられました。

 質疑に立ったのは、自民党の高村正大衆議院議員。高村氏は冒頭、前出のシンポジウムにビデオ出演した遺族の体験(22歳の娘が知人男性にゴルフクラブで殴打され死亡)を例示した後、法務省と法務大臣に答弁を求めました。

 以下、そのやりとりから一部抜粋します。

高村議員 裁判員裁判において被害者のご遺体の写真や血のついた凶器などの客観証拠が、いわゆる刺激証拠という名のもとに、ほとんど証拠採用されていないという問題について認識されているか。

法務省(佐藤淳刑事局長) 刺激証拠という用語については法令上の用語ではないので、どのような証拠が刺激証拠に該当するかについて統一的な見解は存在していない。その上で、近時、裁判員裁判において、被害者のご遺体の写真や凶器等のほか、被害者のけがの写真や犯行時に録音された音声、犯行現場の防犯カメラ映像なども含めた広範な証拠が、いわゆる刺激証拠ということで、証拠採用されにくい傾向にあるとの指摘があることは承知している。

高村議員 こうした現状に対して、検察ではどのように対応しているのか。

法務省(佐藤刑事局長) 検察当局においては、ご遺体の写真や凶器、犯行時の音声や映像などの客観証拠について、個別の事案に応じて裁判員に与える心理的負担の観点にも配慮しつつ、事案の真相を明らかにするという刑事訴訟法の目的を踏まえながら、立証すべき事実との関係でこれを取り調べる必要があると認められる場合には、当該証拠が適切に採用されるよう裁判所に求めるなどの対応に努めているものと承知している。

高村議員 必要な証拠が、いわゆる刺激証拠の名の下に取り調べられないということは、刑事裁判が真相解明のためにあるということをないがしろにしかねない。他方で裁判員の精神的負担を軽減することにも十分配慮する必要がある。制限ではなく、例えば裁判員証拠を見せる際の事前の説明やアナウンス、証拠を見た直後に裁判員同士で自身の心情を打ち明け合うなどの事後的なメンタルケアなどを駆使して行うべきだと思う。

平口洋法務大臣 刑事訴訟の目的が十分に果たされるようにしつつ、裁判員の精神的負担へのケアを考えていく必要がある。一般論として、事案の真相を明らかにするため、必要な証拠が公判定に提出され、それにより適正な事実認定や量刑判断が行われることで、刑事訴訟の目的が果たされるものと考えている。私自身今後も引き続き十分な関心を持って裁判員裁判の運用状況を見守ってまいりたい。