ひき逃げ事故で重傷を負わされ入院中の高橋琴さん(仮名。家族提供)。こうした写真も「刺激証拠」として裁判員には開示されない可能性がある *写真は一部加工してあります
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裁判員制度がスタートして16年が経った。しかし、ここ数年、刑事裁判の現場では、有罪・無罪の事実認定や量刑に影響を及ぼしかねない深刻な問題が起こっている。遺体や傷口、血のついた凶器の写真、犯行の映像などが、裁判員の心にトラウマを残す「刺激証拠」とされ、これをイラストで代用したり、モノクロ化したり、さらには証拠採用すらしないケースが増えているというのだ。今月、現状に危機感を訴える弁護士や法医学者らが都内でシンポジウムを開いた。「刺激証拠」を隠され、判決を下された犯罪被害者や遺族らからは峻烈な怒りの声も上がっている。ノンフィクション作家の柳原三佳氏が取材した。

カラーの証拠写真をモノクロ化やイラスト化

 11月15日、〈「刺激証拠」のイラスト化 隠される真実〉と題したシンポジウムが都内で開かれました。主催は、「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」と「日本法医病理学会」。元裁判官、元検察官、弁護士、殺人事件の被害者遺族、日本とドイツの刑事法医学者、裁判官らが登壇し、午後1時から約4時間半にわたって、それぞれの立場からの問題提起をベースに白熱した議論が交わされました。

〈「刺激証拠」のイラスト化 隠される真実〉のシンポジウム。法曹関係者や殺人事件の被害者遺族などが参加した(筆者撮影)

「刺激証拠」という言葉は、裁判に縁がない人には馴染みがないかもしれません。例えば、殺人事件が発生したとき、警察は証拠として被害者の遺体、血の流れている現場、凶器のナイフなどの写真を撮り、調書に貼付します。司法解剖された場合は、解剖時の写真や臓器の写真なども捜査機関に提供されます。

 これらは、事件の真実を見極めるうえで最も客観的、直接的な証拠と言えるでしょう。

 ところが、最近の裁判員裁判では遺体や血液が写り込んだ写真等を「刺激証拠」と呼び、一般市民から選ばれた裁判員に心理的な負担をかけないよう、カラーをモノクロにしたり、イラストに代替したりして見せることが多くなっています。

 こうした流れに対して、弁護士や法医学者の間からは、「科学的正確性が保てない」「真の証拠を見ないまま裁判をすることは、被告と被害者双方の人権侵害につながる」といった懸念や反発の声が上がっているのです。